試作のシリンダー


翌日の早朝。

ライラとブラムは、ロズの葉を持ってコウランの家へ向かった。

ロズの葉が思う通りに作用するか気になり、早くに目が覚めてしまったのだ。

それはコウランも同様だったらしい。

昨日よりひどい隈を作って、ライラたちを出迎えに来た。



「とにかく、やってみましょうか」



持ってきたロズの葉を見せて、ライラはシリンダーを指差した。

コウランが頷き、ロズの葉をライラから受け取った。


試作のシリンダー内部には、小さなポケットが用意されていた。

昨夜のうちに、ロズの葉を入れるためにコウランが作ったのだ。

そこへロズの葉を丁寧に入れる。

葉が折れたりすると、まったく音が出なくなってしまうからである。



「よし、やってみようぜ」


「うん、やってみよう」



コウランとブラムが、試作のシリンダーを水車の軸に取り付ける。

堰き止めていた水路へ水を流すと、ふたつの水車の音が鳴りはじめた。

古い水車は、これまで通りの音。

新しく作った水車からは、透き通った軽やかな音が辺りへ広がっていった。



「へえ、いいんじゃねえか?」



ブラムが腕組みして唸る。

コウランとライラも、表情を明るくさせた。


念のためにと、一晩水車を回したまま過ごしてみるとコウランが提案した。

今は軽やかに聞こえる音でも、つづけて聞いてみれば不快に感じるかもしれないからだ。

しかしそれは杞憂で済んだ。

一晩経っても、二晩経っても、不快に感じることはなかったらしい。



「それどころか、隈がすっかり取れてますね」


「これまでにないほど、快眠でした」



血色のいい肌を見せ、コウランが目を輝かせた。

ライラはこれまでのコウランの顔を思い出し、ほっとした。

もしかしたらオルゴールが完成する前に倒れてしまうのではないかと心配していたからだ。



「あとはピンを付ければいいわけですね」



コウランが回転するシリンダーに触れ、目を細めた。

あと少しで完成だと言わんばかりの表情だ。

しかしライラは逆に表情を曇らせた。



「その作業は結構大変かもしれません……」


「そうですか? 要は、楽譜通りにピンを置けばいいわけでしょう?」


「そうなんですけど、失敗したら最悪シリンダーごと作り直しになるかもと」


「……たしかに……そうですね」



ライラと同様、途端に表情を曇らせたコウラン。

床に散らばる、小枝ほどの木材を拾いあげた。

それはシリンダーに取り付ける予定の木ピンであった。


木ピンをシリンダーに取り付ける際には、シリンダーに必ず穴を開けることになる。

穴を開ければ埋め直しは出来ない。

木ピンの位置の微調整は、穴を開ける前にしかできないのだ。



「石琴もまだ出来ていませんし、しばらくシリンダーの予備作りでもしますか……?」


「そう、ですね」


「だな。まあ、丁度いいんじゃねえか」


「どうしてです?」


「コウランの目の隈がやっと治ったんだぜ。またひでえ顔になる前に、のんびりとした仕事をしておいたほうがいいってもんだ」



ブラムがコウランを揶揄う。

コウランが苦笑いし、「そうしようか」と片眉を上げた。

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