いくらでもある

家への帰り道。

ライラは積もる雪を踏みしめながら、指導者たちの言葉を何度も思い返した。



「良い話じゃない?」



ライラの肩で、ペノが言った。

特にお道化た様子もなく言うので、本当にそう思っているのだろう。



「子供たちを預けて私たちが去った後、彼らが契約の魔法を使ったらどうします?」


「どうするって?」


「本当に信じていいのでしょうか。やっぱり、信じるというのは難しいことですよ」


「少し前に話したことだね? 心変わりしやすい人間は信用できないって。だけどね。分かってるはずだ。そうでしょ、ライラ」



ペノが小さく笑った。

ライラは眉根を寄せながら、「そうですね」とこぼす。


信用できずとも、今は誰かを信じる他ない。

信じれないなら、信じれるように足掻く他ないのだ。


『魔族が怖い』

『人間が怖い』

『子供たちが裏切ったら?』

『大人たちが本性を現すかも』

『彼らの同胞に気付かれたらどうする』


『もしも、もしも、もしも』


不安に対して、足掻いて、考えて。

信じ合う道を見つける他ない。

そうすれば、契約の魔法に頼らずに済むのだ。



「ライラ。解決できる方法なんて、いくらでもあるよ?」



家の前に着いたライラに、ペノが言った。

ライラは首を傾げ、木戸を開ける。

すると、子供たちと、ブラムが出迎えてくれた。

ブラム以外の笑顔が、ライラの手や服の端を掴んでくる。


ライラは子供たちと少し話をしたあと、ブラムをライラの部屋へ呼んだ。

傷の手当てをする約束があったからだ。

ライラの部屋に入ると、ペノが部屋の隅へ視線を送った。

そこには、金貨の詰まった壺が三つ置かれていた。



「解決できる方法って、あれですか?」


「それもある。他にもあるよ」



ペノが笑うように言う。

一拍置いて、ブラムが部屋に入ってきた。

ベッドの傍にある椅子に腰かけ、服を脱ぎ半裸になる。


ブラムの身体には、腕だけでなく、ところどころに大きな傷があった。

血が止まっている傷もあるが、未だ血が流れ出ている傷もある。

ライラは驚き、「大丈夫なの??」と尋ねた。

しかしブラムは眉ひとつ動かさず、「さっさと手当しろ」と短く返事した。



「……こんなに大怪我してるのに、ずっと黙ってるなんて」


「大した怪我じゃねえ」


「魔法道具を使わないと簡単に治せませんよ」


「止血だけしてくれよ」


「そういうわけにはいかないです」



ライラは魔法道具を取りだす。

道具を傷に当てると、道具に填められた宝石が淡く輝いた。

みるみるうちに血が止まり、傷が塞がっていく。

多少は痛みを我慢していたのか、傷が治るやブラムの表情が幾分か和らいだ。



「ありがとよ」


「どういたしまして」



短く礼を言うブラムに、ライラは微笑む。

そうしてベッドに腰かけ、ブラムの目を覗き込んだ。



「ありがとう、ブラム」


「あ? なんだあ?」


「私以外の面倒も見てくれて」



ライラは目を細め、部屋の木戸へ視線を送る。

木戸の向こう。

子供たちの賑やかな声が聞こえていた。



「ほっといたら、後で誰やらがベソかきそうだからよ」


「そう?」


「そうだ。……もう治ったから、俺は寝るぜ」


「うん。おやすみなさい、ブラム」



ライラは立ち上がったブラムに手を振る。

ブラムがほんの少し困り顔を見せ、翻った。

その様子を見ていたペノが、頷きつつ笑うのだった。

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