「これから」

村に着くや、心配していたガラッド村の村人たちが集まってきた。

鉱夫たちを出迎える、いくつもの家族。

その中に、エイドナの姿があった。

エイドナは少女たちを連れていて、少年たちを出迎えてくれた。



「ずいぶんな無茶をしたそうじゃないか」



エイドナが叱るように言う。

少年たちが俯き、エイドナと少女たちに謝った。



「フィナお嬢さんは、よくもまあ、索道が使えたねえ?」


「……行きも帰りも、隣に座っている人に多大な迷惑をかけましたが」


「はは。そいつはいい。可憐なお嬢様に頼ってもらえるなんて本望だろうよ」


「そうだと良いですが」



ライラは隣にいたブラムに目を向ける。

ブラムが眉根を寄せ、目を背けた。

するとエイドナが大笑いし、「可愛らしい男だねえ」と、ブラムを揶揄った。



「……フィナ様」



しばらくエイドナと話していると、後ろからレッサの声が通ってきた。

振り返ると、レッサと、数人の鉱夫たちがいた。

鉱夫以外にも、見知らぬ男たちが数人いる。



「少し、話せる時間はありますか?」


「……えっと」



ライラは戸惑い、ブラムのほうを見た。

ブラムの傷の手当てをしたいと思っていたからだ。

しかしブラムが首を横に振る。

少しぐらい待つことになっても構わないといったところか。



「……では、少しなら」


「もちろん。皆、疲れていますからね」



レッサが頷き、エイドナの食堂の方向を指差す。

食堂で話しをしようということか。

ライラはレッサに頷き返し、食堂へ向かった。


子供たちは、先に帰ってもらうことにした。

一緒に帰りたかったが、仕方がない。

ライラは子供たちをブラムに預け、「早く戻りますから」と伝えた。



「それで、話とは」



食堂に着くや、ライラは単刀直入に言った。

疲労困憊であるから、気持ちに余裕がなかった。

レッサも同様であったので、話を早く済ませようと、一緒に来た見知らぬ男たちを手短に紹介してくれた。



「彼らは、村の指導者のような者たちです。ガラッド村のことだけでなく、村の外との関係も繋いでくれています」


「つまり、村長さんたちですか」


「はは。まあ、そんなところです」


「話というのは、子供たちの『これから』のことですか」


「そうなります」



隠すことなく、レッサが答える。

村の指導者たちも頷き、ライラに一礼した。



「結論から言えば、ガラッド村は子供たちを村の一員としたい」



最も高齢な指導者が言った。

思ってもいなかったことに、ライラは驚く。

しかしすぐに、冷静になった。

子供たちが村に留められるのは、良いことなのだろうかと。



「それは、子供たちに正体を気付かれてしまったからですか?」


「もちろん、それが第一の理由です。フィナ様」


「このまま外に出したら、村の秘密が守られないと」


「その通り。しかしそれだけのことなら、別の手段で防ぐことも出来ます」


「別の手段とはなんです?」


「契約の魔法です」



高齢の指導者が、濁すことなく言った。

隣にいるレッサも顔色ひとつ動かさない。


ベルノーの人間たちが契約の魔法を非道のために使っていると知りながら、そう言うのか。

ライラは顔を歪めた。

嫌悪感を隠そうとも思えない。



「フィナ様、落ち着いてください」



睨むライラを宥めるようにレッサが言った。



「もちろん、魔法を使おうなんて思っていません。それは最後の手段です」


「本当ですか?」


「誓いましょう。我々が最後の手段を用いる時は、この村の存続にかかわる時だけです」



レッサが言うと、高齢の指導者が頷いた。

ライラはまだ少し納得できなかったが、我慢した。

ガラッド村のことを思えば、部外者であるライラがこれ以上を望むのは無礼に過ぎる。



「フィナ様。我々も、人間との共存をまったく考えてこなかったわけではありません」



高齢の指導者が口調を強めた。

誤解しないで欲しいと言いたげだ。


もちろんライラは誤解していないつもりであった。

ブラムはともかく、魔族ではないライラも村に入れてくれたのだから。

なにもかも受け付けず、除き去ろうなどとは思っていないだろう。



「……子供たちを受け入れてくれるなら、私も出来ることをします」


「ありがたい」


「このことを子供たちと話す前に、もう少し相談する時間をいただいても?」


「我々もそう望んでいます。明日以降、お願いできますかな」


「ええ、喜んで」



ライラは高齢の指導者と握手を交わす。

他の指導者とレッサとも握手すると、その場の短い話し合いは幕を閉じた。

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