本懐

外が明るくなりはじめたころ。

悪夢にうなされていた少年たちが静かになり、吹雪もやや弱くなった。

見張りに立っていた鉱夫たちとブラムは、休憩所に戻るや崩れるように倒れ、眠った。

寝ずに少年たちの傍にいたライラも、気を失うように眠った。


夕暮れ時。

美味しそうな匂いを受けて、ライラは目を覚ました。

ブラムと鉱夫たちも同様に目を覚ます。



「目が覚めましたか、ご主人様」



セクタの声が通った。

見ると、少年たちが料理をしていた。

大きな鍋で、根菜入りの粥を作っている。



「……作ってくれたの?」


「はい」


「……ありがとうございます」



ライラは頭を下げる。

お腹を空かせていた鉱夫たちも、少年たちに礼をした。


ブラムが最後に礼を言い、少年たちが作った粥を見る。

そうして少年たちの頭を撫で、にかりと笑った。



「こいつは美味そうだ。うちのお嬢様じゃあ、こんなに美味そうな粥は作れないぜ」


「そんな。これは簡単です」


「簡単かもしれないが、作れねえやつもいるんだ。大したもんだ」


「……そうですねえ」



揶揄うブラムを、ライラは思いきり抓る。

小さく悲鳴をあげたブラムを見て、少年たちが笑った。

レッサと鉱夫たちも笑う。


吹雪はだいぶ弱くなっていたが、ライラたちは皆でゆっくりと粥を食べた。

薄味であったが、妙に美味しい。

皆、奪い合うように食べ、大鍋を空にさせた。



「ありがとう、みんな」



食事のあと、レッサが改めて礼を言った。

少年たちにだけでなく、交代で見張りをしてくれた者にも労いの言葉をかけていく。

昨夜から今まで何があったかを知った少年たちも、鉱夫たちに礼を言って回った。



「俺たちは良い仲間だな。そうだろ、セクタ」


「そう思います、レッサさん」


「苦難を乗り越えて強くなるのは、男の本懐だ」


「男の?」


「そうだ。せっかくだから教えてやる。男の生き方ってやつを」


「はい」


「お前たちも来い。村へ降りるまでの間、良いことを教えてやるぞ」



そう言ったレッサが、少年たちの肩を叩いていった。

人間や魔族という区別ではない。

男という区別で語るレッサを見て、少年たちの表情が明るくなった。



吹雪が収まった採掘場。

休憩所を出て、索道へ向かう間。

レッサによる、男の生きざま講義がつづいた。



「……女もいるんですけどね」



わいわい騒ぐ鉱夫と少年たちの最後尾で、ライラは顔をしかめた。

ブラムが嘲るように笑う。



「そういや、お前、女だったな」


「あ、あっ!? 殴りますよ。本当に、本気で」


「は! やってみろよ!?」


「…………ああ、もう。……やりませんよ。もう」



ふざけるブラムを見て、ライラは表情を萎れさせた。

ブラムの腕を見て、眉根を寄せる。

その腕には、血が滲んでいた。

誰にも気付かれないよう布を厚く巻いていたようだが、ライラだけは、少し前から血が滲み出ていたことに気付いていた。



「……無理しないでって言ってるのに」


「してねえよ」


「魔物と戦ったのですか」


「追い払っただけだ」



ブラムが腕を振ってみせる。

痛そうにはしなかったが、ライラの目には痛々しく映った。



「そういうことにしておきます。……帰ったら手当てしますからね」


「ああ」



ブラムが頷く。

ライラは苦笑いして、ブラムの背に触れるのだった。

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