不信

事が収まり、採掘場。

ライラたちは、作業員たちが休むための休憩所にいた。


本来なら村へ戻りたかったが、無理であった。

荒れ狂う大吹雪が、視界だけでなく、道を阻んでいたからである。



「この辺りの精霊に、『しばらく吹雪を止めてくれ』ってお願いしたからな。今は止めていた分の反動ってところ! なあに、二日もすれば落ち着くって精霊たちが言ってるよ。素晴らしい幸運だな!」



ロジーがそう言うので、ライラたちは採掘場に留まるほかなかった。

鉱夫のレッサたちや、逃げ出そうとした少年たちも同様である。

ロジー以外の皆が、重苦しい空気を纏って、吹雪が止むのを待ちつづけた。



「とりあえず、何のお咎めもなしってわけにはいかねえだろ」



ブラムが顔をしかめ、少年たちを見た。

少年たちは休憩所の端のほうにいて、レッサたちと距離を取っていた。

レッサたちだけでなく、ライラとブラムからも距離を取っている。



「そうですね」


「俺が行けば泣かせちまうかもしれねえ。ライラ、お前がやれよ」


「ですよね」


「ペノを放り込めば適当に和むだろ」


「そうしましょうか。いいですよね、ペノ」


「扱い酷くない??」



がっかりとした声をこぼすペノ。

しかし拒みはしなかった。

ただのウサギとして黙っていれば、騒ぎの中心で高みの見物を決め込めるからだ。


ライラはペノを連れ、少年たちの傍へ行った。

途中、セクタと目が合う。

他の少年たちと違い、セクタに怯えの色はなかった。



「少し良いですか?」



ライラは少年たちの傍で、腰を下ろす。

目線を少年たちより低くした。

次いで、最も怯えた顔をしている少年にペノを手渡す。

ペノが「にゃあ」と鳴くと、怯えていた少年の目がほんの少し柔らかくなった。



「ごめんなさい、ご主人様」



ひとりの少年が謝る。

堰を切ったように他の少年たちもライラに謝罪した。

しかしセクタだけは何も言わなかった。

じっとライラを見て、黙っている。



「お世話になっているレッサさんたちに迷惑をかけました。あとで一緒に謝りに行きましょう?」


「……はい、ご主人様」


「その前に、聞いておきたいことが」


「……どうして逃げたのか、ですか?」


「そうです。教えてくれますか?」



ライラは出来るだけ優しい口調で話すよう努めた。

努力の甲斐があってか、少年たちの緊張が少し解けたように見えた。

セクタだけが、緊張感を保っているが。



「……この村の人たちはみんな、魔族なんです。だから、逃げたんです」



ひとりが震えながら言った。

同様に思っているであろう他の少年たちも、その言葉に頷く。



「どうしてそう思うのです?」


「だって、みんな普通じゃない」


「普通ですよ」


「違います。どうして嘘を付くんですか?」



少年がすがるように言った。

ライラは困り果て、ブラムに視線を送る。

しかしブラムも何と答えればいいか分からないようで、首を横に振った。



「ご主人様」



黙っていたセクタが、口を開いた。

他の少年たちとは違い、やや冷たい声。

ライラは内心、恐くなる。

三百年生きてきて、こんな小さな子供よりもライラのほうが小心者なのだ。



「ご主人様、ボクがみんなに言いました」


「……セクタが、どうして」


「絶対に魔族だと、思ったから」



そう答えたセクタが、レッサたちに不信な目を向けた。

セクタの声が届かずとも、レッサたちは話の内容を察したらしい。

困った顔をして、目を逸らした。


セクタが言うには、村人たちのことを魔族だと思いはじめた理由は、小さなことであった。

村人たちの膂力が、普通の人間よりほんの少し強いように感じたのだという。

そんな些細なことをきっかけにして観察しているうちに、疑惑が確信へ変わっていったのだ。



(……ブラムが言った通りだった)



子供というものは本当に勘が良い。

大人から見れば些細なことでも、純真な子供から見れば大きな違いがあるのだろう。

もしかすると、ライラたちのことも気付いているのかもしれない。

「ご主人様」と敬っているから言わないだけで、内心恐れているのではないか。

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