賑やかなランプ


ボロボロの空き家が建て直され、引っ越しが始まる。

ブラムの荷物と、ブラムの倍以上はあるライラの荷物。

豪華な馬車と、冬季の間だけしか使わないのに爆買いした家具。



「お前、ここにずっと住むつもりかよ?」



直した家へ運ばれていく家具を見て、ブラムが顔をしかめた。



「冬季の間だけですよ」


「その後、この家具はどうすんだ?」


「村に置いていきます。要らないですから」


「……いつもながら、馬鹿みたいな金の使い方だな」



ブラムが吐き捨てるように言った。

しかし反対はしてこない。

村に置いていくという言葉が、ブラムの沸点を高くしたのだ


もちろん家具の使い道は自分のためだけではない。

八人の子供たちのために準備したものでもあった。

寝具はもちろんのこと、ひとりひとりの収納箱も購入した。

テーブルも椅子も必要であるし、たくさんのランプも必要だ。



「いや、ランプは要らねえだろ。 お前はなんでそんなにたくさんランプを買うんだよ」


「明るいほうがいいので」


「三つもありゃあ十分だろ」


「そんなの絶対暗いじゃないですか」



ライラにとって、家の明るさは重要であった。

暗いと、貧しい気分になるのだ。

個人的な感覚だと分かってはいるが、どうしても譲れない。


家中にランプを設置していくライラ。

それを見て、子供たちがはしゃぎだした。

豪邸に招かれたような気分になったのだろう。



「今日からここが私たちの家ですよ」


「本当ですか、ご主人様!?」


「ええ。不足しているものがあれば教えてくださいね」


「そんなこと、あるはずがないです!」



子供たちが口を揃えて言った。

そうして寝具を並べている部屋へ駆けていく。


少年たちと少女たちの部屋は、別にしておいた。

寝具の上で跳ねまわる少年たちとは対照的に、少女たちは部屋の壁紙の模様や椅子の装飾などに執心していた。



「とても綺麗なお部屋です、ご主人様」


「それは良かったです」


「こんなに良くしていただいて、なんとお礼を言えばいいか」



少女のひとりが、言いながら泣きだした。

ライラは泣いてしまった少女の傍へ寄り、そっと抱きしめる。

震えている小さな身体。

孤児となってからここへ来るまで、どれほど辛かったことか。



「なら、頑張ってあげないとねえ」



夜になり、無数のランプで明るくなった寝室で、ペノが言った。

はしゃぎ回ったり泣きつかれたりした子供たちは、皆すでに眠っている。

悪夢を見てうなされる子供もいたが、ライラが落ち着かせて回った。

ブラムも手伝ってくれたので、その日の夜は早々に静かとなった。



「……分かってます」


「まあ、クナドの商会に頼るのが簡単だと思うけどね」


「それ以外の方法も考えます。ユナのことで頼ったばかりですし」


「そう? ライラはそんなに賢くないんだから、無理しちゃダメだよ」


「言われなくても分かってます」



ライラは頬を膨らませる。

次いで、腹立たしい笑い声をまき散らすペノの両耳を掴み、放り投げた。

さすがに投げられ慣れたのか。

いつも通りと言わんばかりの表情でベッドへ着地するペノ。

その顔が余計に腹立たしい。

隣の部屋で子供たちが寝ていなければ、思いきり抓ってやりたいところだ。



「でも、考えるのは明日です。とりあえず、今日は頑張ったので」



ペノを横目にして、ライラは柔らかなベッドに腰かけた。

ふっと息を吐き、とんと足を伸ばす。


寝室にある、小さな暖炉。

ライラの動きに合わせて、跳ねるように揺れた。

赤と黄色が、暖炉の中で踊りだす。

賑やかなようで、寂しい音が、小さく鳴った。


何かを語りかけてくるようだと、ライラは耳を澄ませた。


火の爆ぜる音。

聞いているうち、ライラは夢へと落ちていくのだった。

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