放浪編 約束

雪の中で


白に染まった大地。

空も、ヴェノスレス高山も、すべて真っ白。

境目が分からなくなる光景に、ライラは圧倒されていた。


その只中を、男たちが歩いていく。

ライラと共に暮らしている少年たちを連れて。



「こんな大雪の日に、仕事をするのですか?」



ライラはありえないと言わんばかりに首を横に振った。

しかしレッサが大笑いする。



「今日は仕事じゃありません。雪道を歩く練習ですよ」


「練習だけですか?」


「練習だけです。それにこれくらいの雪、大したことありません。子供たちを見てください。大喜びしていますよ」


「……確かに」



雪の中を駆け回っている少年たちを見て、ライラは困り顔をした。

これほど寒く、これほど歩きづらいというのに、少年たちはなぜ楽しそうなのかと。

念のためと、村の大人たちが少年たちを監視してくれていた。

雪の中で危険な行動を取れば、怪我では済まないからだ。



「採掘場の手伝いをするには、少し雪道に慣れる必要があるんです。あと、雪の危険性も」


「でも、採掘場までは索道で行くのでしょう?」


「その先は多少歩きますからね。まあ、大丈夫。フィナ様もご一緒にいかがですか?」



レッサが招くような仕草をする。

ライラは間髪入れずに断った。

体力に自信がないうえ、ヴェノスレス高山の寒さに耐えれる自信もない。



「ちったあ鍛えたほうがいいんじゃねえか?」



後ろにいたブラムが言った。

厚着をしているライラとは違い、ずいぶん身軽そうな服を着ている。

「本当に寒くないの?」と問うと、「寒くねえ」と短く答えてきた。

鼻の頭が少し赤いようだが、寒くはないのだろう。そういうことにしておいてあげる。



「鍛えられる前に倒れますよ、私は」


「だろうなあ」


「なので、私の代わりにブラムが参加してきてください」


「行かねえよ。それより温けえスープを作ってやったほうがいいだろ。レッサたちの分も作っておいてやらあ」


「……そうですね」



さすがはブラムである。

口は悪いが、女子力が高い。

もう少し可愛い表情で料理をしていれば、得点が高くなるのだが。


それでも料理をしているブラムの姿を見るのは、嫌いではない。

手際よく動くブラムを見ているうちに、時間が溶けていく。



「ここはライラが、『私も手伝います』って言うべきところだと思うけどねえ」



ライラ同様にブラムを見ていたペノが言った。

ライラは自嘲するように息を吐き、ペノの耳を摘まむ。



「私が手伝ったものを食べたいですか?」


「ううん、全然!」


「じゃあ、黙っていましょうね?」



ライラは摘まんでいたペノの耳を掴み直し、笑ってみせる。

少し痛かったのか。ペノが表情を引き攣らせ、両手足をばたつかせた。



「何やってんだ、馬鹿ライラ。さっさと器を並べとけよ」


「馬鹿って言わないで!」



ライラは声を上げる。

次いで勢いを付け、両腕を振った。

するとライラが握っていたペノの小さな身体が、宙を舞った。

悲鳴に似た声を上げるペノ。

その姿を見て、ライラとブラムを顔を合わせ、笑うのだった。

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