とっとと全員でかかってこい

平原の先に、複数の人影。

あれが盗賊なのかとロジーに尋ねると、「そうとも」とロジーが明るく答えた。


盗賊は少なくとも三十人ほど。

まっすぐに村へと進んでいる。

それだけではない。

盗賊団の中に、人間の大きさではない影が五つ、混ざっていた。



「魔物ですね」


「だねえ」



ライラの肩で、ペノが頷く。


遠く離れていても、魔物の姿形はよく見えた。

巨大な頭に、大きな口。手足はやや小さいが、人間の胴体ほどの太さがある。


魔物は人を食べるという。

その瞬間を見たことはないが、確かにその姿は、人を食べそうだと思えた。



「勝てる?」


「ロジーが魔物の相手をしてくれたらな」



ブラムがロジーを指差して言った。

ロジーがにやりと笑い、「魔物なら任してくれ」と戦意を見せる。


大精霊ロジーには、人間に直接攻撃できないという制限があった。

できるとすれば、魔法の余波をぶつけることくらい。

それが非常に面倒なので、ロジーは敵意を向けてくる人間と相対することを嫌う。



「盗賊どもは俺がやる」


「私も戦います」


「無理しない程度に頼むぜ。戦ってる最中まで介護してらんねえからな」


「節約しなくてもいいなら、いくらでもやりますよ」


「……っち、ひとつかふたつにしておけよ」



ライラの手にある魔法道具を見て、ブラムが眉根を寄せた。


馬車を盗賊に向けて走らせる。

距離を詰めていくと、盗賊たちがライラの馬車に気付き、動きだした。

大きな魔物五匹もライラの馬車に目を光らせ、攻撃の構えを取りはじめる。



「馬車を止めろ」


「…………御意……」



ブラムの声に、御者が短く返事した。

やがて馬車が止まり、振動が無くなる。

ライラはほっとして、誰よりも早く馬車から飛びだした。



「……私、ちょっと休んでから行ってもいいですか?」


「そうだろうと思ってたから気にすんな。地べたに這いつくばってろ」


「……言い方あ」


「うるせえ。行くぞ、ロジー」


「はいよ。それじゃあ、ご主人様。ごゆるりと!」


「……はい。本当にすみません。……いってらっしゃい」



ライラが手を振ると、ブラムが駆けだした。

ロジーは空高く飛び、盗賊たちの真上に陣取る。


地上を駆けるブラムに対し、数人の盗賊が進み出た。

それぞれ剣を構え、笑っている。

向かってくるブラムが魔族だと気付かないからだ。


魔族は魔法が使えるだけではない。

人間と同じ姿であるのに、力も強い。

人間に比べて圧倒的に個体数が少ないのに、人間と長く戦争をつづけられる理由がそれだ。



「手を抜かなきゃならねえのが、めんどくせえな」



人間を殺さないと約束しているブラムの得物は、メイスのみ。

剣を使えば、致命傷を与えてしまう確率が上がるからだ。


向かってくる盗賊のひとりを見据え、ブラムがメイスを構える。

笑いながら距離を詰める盗賊が、ブラムのメイス目掛けて剣を振った。


鋭い金属音。

盗賊の動きに合わせて振ったメイスが、剣を弾いた。

予想外のブラムの力に驚く盗賊へ、ブラムが二撃目を放つ。

メイスが盗賊の肩を撃った。

鈍い音。

直後に、盗賊の身体が曲がった。



「ぎあああああ!?」



数瞬前まで笑っていた盗賊が、苦痛に顔を歪める。

その後ろにいた二人の盗賊も表情を変えた。

油断できない相手と瞬時に察し、剣を構え直す。



「ライラが無駄遣いする前に、さっさと終わらせてやる」


「なんだあ、てめえ!?」


「うるせえ。とっとと全員でかかってこい」



ブラムがメイス片手に盗賊たちを挑発する。

数で勝っていて余裕があるはずの盗賊たちが激高した。

三十数人、すべての盗賊たちが抜剣し、ブラムを睨む。

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