剣が覗く

家に帰ったライラを、雇っていた使用人がほっとした様子で出迎えた。

ユナの熱が下がったのだという。

ライラは苛立っていたことも忘れ、急いでユナの傍へ駆け寄った。



「リリーさん」



ベッドで横になっていたユナが、ライラを見た。

ライラはほっとして、ユナの頬を撫でた。



「ユナ。良かったです、本当に」


「ご迷惑をおかけしました」


「そんなことないです。とにかく今は、安心して眠ってください」


「でも……」



ユナの目に虚しさが満ちた。

か細い両手を震わせ、自らの胸元を探る。


首飾りを探しているのだと、ライラは気付いた。

きっと強盗に遭ったその日も、今のような表情で首飾りを追いつづけていたのだろう。

傷付いた身体で、擦り切れるまで。



「ユナ」



ライラは優しく語りかけながら、木箱を取りだした。

首を傾げるユナに見せながら、そっと蓋を開ける。



「この首飾りを探していましたか?」


「……! こ、これ!」


「私たちが代わりに探しておきました」



そう言ってライラは、首飾りをユナに手渡した。

ユナが首飾りを握りしめる。

唇を噛み締め、呻いた。

ライラはユナが落ち着くまで、静かに寄り添った。



「これは、父の形見なんです」



落ち着いたころ、ユナが声をこぼした。



「ええ、そうでしたね」


「父は魔法道具の研究をしていました」


「……じゃあ、その石のことも?」


「知っていました。売れば高いことも。……もしかしたらいつか、今回のように盗まれることだってあるかもしれないとも」


「隠しておこうとは思わなかったのですか?」


「身に着けておかないと、生きる力が消えてしまいそうでした」



そう言ったユナの唇が、震えた。

しかしその様子は、悲しいといった感情とは違っていた。

どこか少し、激しさのようなものがユナの内に渦巻いている。

妙に感じたライラは首を傾げ、ユナに手を伸ばそうとした。


直後。

ライラの肩の上にいたペノが、両耳を大きく震わせた。

長い耳で、ライラの頬を何度も打ってくる。



「ど、どうしたの??」



ライラは驚き、ペノを見た。

するとペノの小さな両目が、鋭さを持って窓を睨んでいることに気付いた。

すぐさま窓に目を向ける。


窓の外。

人の腕と、鋭い光が見えた。



「わ、あ、ぶない!!」



ライラは叫びながら、ユナを抱きかかえた。

次いで、部屋の隅へ飛びのく。


直後に、木窓から剣の刃が飛び込んできた。

命を刈り取る金属音が、室内にひびきわたった。



「まさか!!」



ユナを抱きしめたまま、ライラは窓を睨みつけた。

窓の外から伸びている剣刃。

その剣を持つ、男の顔が見える。

人を人と思っていない目が、ライラとユナに向いていた。

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