ゼイメルケルの想い

ゼイメルケルの情報を得て、翌日。

ライラはルーアムの中央通りを訪れた。


ゼイメルケルの首飾りがある店は別の通りであったが、真っ直ぐ向かうわけにはいかない。

念には念を。必要以上の準備を中央通りで整えてから、ライラは目的の店へ向かった。


中年の男に教えられた店は、ライラもよく知る店であった。

あくどい商売をしており、時には法に触れることもしていると耳にしている。

しかし店構えは、そんな噂などまったくないと言わんばかりに華やかであった。

客も多く、裕福そうな老夫婦も店内に見えた。



「高級雑貨店ってところかなあ?」



並んでいる珍しい品々に、ペノが目を輝かせた。

それはライラも同じで、手に入れたいものがいくつか目に映った。



「……あ、いや、そういうつもりで来たわけではありませんから」


「ボクよりも食いついて見てたくせに」


「面目在りません」



ライラは俯く。

俯いた先にも、珍しい品が転がっていた。

高価な魔法道具まで売られている。

やはり欲しくなる物ばかりだ。



「やあ、これは! リリー様!」



ついつい目移りしてしまうライラの耳に、しゃがれた声が届いた。

見ると、店主らしき男がライラに向かってお辞儀をしていた。

ライラははっとして返礼する。

店主らしき男が小さく笑い、歩み寄ってきた。


店主らしき男は、バオムと名乗った。

ライラも偽名を名乗り、再び礼をした。



「私のことを知っていたのですか?」


「もちろんです、リリー様。この街の貴いお方のことはすべて知っております」



バオムの瞳が鈍く輝いた。

笑顔ではあるが、表情の裏に凶器を潜ませているように見える。



「何かお求めのものがございますか?」



バオムが微笑みながら言った。

商人らしく、恭しい。

悪い噂を聞いていなければ、ただのやり手の商人だと思うだろう。



「探し物があります」


「ほう。それはそれは。当店にあると良いのですが」


「あると聞いています。ゼイメルケルの首飾りです」


「ほほう! ゼイメルケル!」



バオムが大袈裟に驚き、声を上げた。

そうして、店の奥に控えていた店員を手招きする。

店員が駆け寄ってくると、バオムが囁くようにゼイメルケルのことを伝えた。



「リリー様は大変運が良い」


「と言いますと」


「実は先日。とても質の良いゼイメルケルを買い取りましてな」


「それが首飾りの?」


「ええ、その通り。大変運が良い」



バオムがにこりと笑う。

間を置いて、店の奥から店員が駆けてきた。

店員の手には、小さな木箱があった。



「こちらです。リリー様」



木箱を受け取ったバオムが、勿体つけるようにして蓋を開けた。

中には、見知った装飾の首飾りが収められていた。

それを見た瞬間、ペノの両耳が揺れる。

耳の端がライラの頬を打った。



「……素敵な首飾りですね」


「お目が高い。普通の人には理解できない価値が、ここにあります」


「そのようです。多くの想いも、込められているでしょう」


「ほほう。多くの想いと。なるほど」



バオムの眉が、微かに動いた。

次いでライラの表情を窺うように、目を細める。

ライラはにこりと笑い、ゼイメルケルの首飾りを指差した。



「買います。おいくらですか?」


「金貨四百五十枚となります」


「四百五十? ですか?」


「左様でございます」



バオムが微笑みながら言った。

ライラはかすかに眉根を寄せる。


ゼイメルケルの相場を、ライラは知っていた。

かつて、大商人クナドと多くの品を見てきたからである。

そのクナドはとうの昔に亡くなったが、得てきた知識はライラの内にしっかりと残っていた。

ライラの内にある知識では、目の前のゼイメルケルの価値は金貨百五十枚ほどであった。

時代が変わっても、ゼイメルケルの価値はさほど変わっていないはずである。

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