不老


「んー? 隠していることって?」


「つまり、その……私って……本当にただの人間なの、かなって……」


「んー?? ああ。ふふ、あっははー!!」



ペノが大きな声で笑った。

嘲笑うようなひびき。

不快がライラの耳を叩く。



「はっは、なるほどねえ。いやいや。大丈夫だよ、ライラ」


「なにが、大丈夫なの??」


「そんなにイラつかないで。ふふ、まあ。とりあえずライラは、魔族とかじゃあないよ?」



とんと、ライラの肩からペノが飛び降りた。

跳ねながらライラの太腿の上へ移動する。

そうしてから、ペノがライラを下から覗き込んだ。



「隠し事もしてないよ。聞かれなかったから、教えてないけど」


「……なにを教えてないの?」


「ボクはねえ。君の『願い』を叶えただけだよ」


「……それって。……どの、『願い』ですか」



ライラは息を飲んだ。

この世界で生き返る前の、あの不思議な空間のことを思い出そうとする。

しかしもう、十五年も前のことだ。

お金のこと以外、なにを願ったか記憶にはなかった。



「君は言ったじゃないか、『出来るだけ長生きしたいです』ってね」



ペノの瞳の光が、かすかに揺れた。

妖しくもあり、どこか力強くも見える光。

こうして見ると、やはり次元の違う存在なのだと感じ取れる。

その存在の大きさが、ライラに異議を唱えさせないようにしている気がした。



「……言ったかもしれません」


「つまり、その願い通りさ。ライラは長く生きる力があるんだ」


「それって……どれくらいですか」


「んー、特に限界はないよ?」


「え?」


「限界はないんだ。ライラ、君はつまり『不老』なんだよ」



さらりと、ペノが言い切った。

別に特別なことではないと言わんばかりに。


しかしライラの心の内は、ひどく搔き乱された。

「不老」などと。

いざ言われてみて、喜んでいいのか、泣いていいのか分からない。

少なくとも、普通の人間ではなくなった。それだけは間違いない。



「それって……魔族のようなものではないですか……?」



考えていることが、こぼれ落ちるように口から吐きだされた。

ライラの言葉を拾い上げ、ペノがかすかに首を傾げる。



「んー。まあ、普通の人間から見たら……そう思われるかもしれないねえ」


「それじゃあ……」


「んー? ああ、なるほどねえ。そうだなあ、村の人々からはそのうち……変な目で見られるかもしれないねえ」



ペノの声が、ララの頭の中で不気味にひびいた。

嘲笑うようだと思ったが、どうやら違う。

他人事なのだと、ライラは気付いた。

もしくは、悩むべきことではない、ほんの些細なことだと思っているのだ。

そんな些細なことで、ライラのような転生者が右往左往している。それが愉快に思えるのかもしれない。



息苦しさを覚えた。

自分自身にも、ペノに対しても。

いや、魔族を嫌う村人や、世界に対してもだ。


この先、平和に生きていけるのか。

いや、村に留まって生きていけるのだろうか?



ライラは鏡から目を背ける。

立ち上がり、窓へ目を向けた。

瞬間、窓の外に村人の姿が見えた。

ただ通りすぎただけとすぐに分かったが、胸の奥が締め付けられる。



「……もう少し早く、勇気を出して尋ねれば良かったです」


「そうかい?」


「……いえ、嘘です。……嘘っていうか、……きっと、聞けなかったですね」


「小心者だもんねえ」


「そうです。今聞いたのだって、ついつい口に出ただけで……」


「だろうねえ。ライラのことだから、あと十年は聞いてこないと思ったよ」


「……さすがにそこまでは」



ライラは苦笑いした。

苦笑いすることで、心の内に小さな想いが落ちる。


間を置いて、ギイと木戸の開く音がした。

リザが帰ってきたらしい。


ライラは唇を結び、再び鏡に目を向ける。

光を受けた少女の姿。

その半身に残った影が、ライラの瞳の底へ沈んだ。

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