幼きすれ違い


メノスに着いて、翌日。

ライラは妙な違和感を覚えて目を覚ました。


この感覚は知っている。

魔族であるブラムが、ライラを探っていたときのあの感覚だ。



「もしかして、ブラム……?」


「たぶん、そうだねえ」


「どうしたんだろう?」



ライラは首を傾げ、身支度する。

その間も、ライラを探るような感覚がつづいていた。


ライラはブラムの顔を思い出して、少し嫌な気分になった。

しかしいつまでもこの想いを抱えていたくはなかった。

不本意ではあるが、早々に謝罪して元の関係に戻ったほうが良い。

無理やりに決意し、ライラは木戸を押し開けた。



「……ブラム?」



木戸の先に、ブラムが立っていた。

しかしいつものように早々喚き散らしてこない。

ライラを睨むようにして、じっと立っている。



「……お前、でけえ魔力を使っただろう? この村じゃねえところでよ」


「……そう、だけど」


「そうだけど……、じゃねえ! 分かってんのか、馬鹿ライラ! 他の魔族に気付かれるかもしれねえって言っただろ!!」


「なによ! 私だって……!」



ライラは怒鳴り返す。

とはいえ頭の中では、分かっていた。

ブラムはライラのことを心配して来てくれたのだと。



「なんだよ!?」


「……私だって、その」


「……ちっ、とにかく浅はかなんだよ! この馬鹿が!!」



ブラムの罵詈雑言がライラに浴びせられる。

心配してくれているのかもしれないが、これはひどいとライラは思った。

心の内が徐々に黒くなり、ついには溢れ出る。



「わ、私の勝手でしょ! もう放っておいて!!」



再び怒鳴る。

怒鳴った瞬間、しまったとライラは思った。

魔力のことでブラムに協力を求めたこともあるのだ。

「私の勝手だ」と言うのは、明らかにおかしい。


しかしもう、吐きだした言葉は戻らない。

ライラの言葉を受け、一瞬、ブラムの表情が沈んだ。



「……そうかよ」



ブラムが翻り、去っていく。

その背を見て、ライラはひどく後悔した。


謝るなら、今しかない。

今を逃せば、もうブラムとの関係は跡形もなく消えてしまう。

そう思って、ライラは手を伸ばそうとした。

しかし、出来なかった。

くだらない自尊心のゆえか。それとも――



「いいのかい?」



ペノが心配そうに囁いた。

ライラは何も言えず、その場で立ち尽くすのだった。

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