金貨の山


「……ライラ?」



ペノが不思議そうにしてライラの顔を覗き込んだ。



「……買います」


「いいのかい?」


「いいです。買います」



息苦しさを払いのけようとして、ライラは拳を握りしめた。

そしてクナドに声をかけ、店内で少し待っていてほしいと告げる。



「本気で買うのかい? ライラお嬢様」


「買います。すぐに戻ります」



そう言って、ライラは宝石店を出た。

次いで、別の店で木箱を買う。

金貨五百枚以上を収められる大きさの箱だ。

木箱を包むための布も買い、ライラは急いで宝石店へ戻った。


宝石店に入る直前、ライラは木箱を布で包んだ。

そうしてわざとらしく重そうに木箱を持ってみせた。

実際、本物が入っていたらどれほど重いか。見当もつかないが。



「お待たせしました」



ライラが言うと、店の奥にいたクナドが目を大きく見開いた。

期待していた金貨の山が見れるのかという興味の色をにじませて。



「こちらの木箱に金貨を入れています。手伝っていただいても?」


「は、はい!」



クナドの前で立ち尽くしていた店員が、はっとしてライラの前へ駆け寄った。

そして店員の手が、床に下ろした木箱へ伸ばされる。

その直前、ライラは木箱を包む布の中に手を差し込んだ。

「お金に困らない力」を使い、木箱の中に金貨を満たしていく。


直後、ライラは奇妙な感覚を覚えた。

周囲の空気が一瞬暗くなり、なにかがチカチカと瞬いたように見えた。



(この瞬きが魔力?)



暗闇の中でライラは首を傾げる。

しばらくして、周囲に広がった暗闇が消えていった。

気付けば木箱の中には、金貨がぎっしりと詰まっていた。



「……む、え……お、重っ……!」



金貨が詰まった木箱を持ちあげようとした店員が呻いた。

それほどに重いのかとライラは内心思ったが、気にしないふりをした。

木箱を持ちあげようとした店員の目。何度もライラへ向く。

ライラの細腕でどうやって運んできたのだと言わんばかり。



「金貨の数を確認してください」


「か、畏まりました」



店員が二人がかりで木箱を持ち、奥のカウンターへ運び込む。

遠くから見ていたクナドが、未だ目を丸くさせていた。

ライラはクナドの傍へ寄り、「失礼しました」と頭を下げた。



「……はっは、さすがはライラお嬢様だ」


「お望みの金貨の山ですよ」


「そうらしい。正直俺は今、お嬢様と組めた幸運を神様に感謝したよ」


「大げさな」


「はっは! 大げさなものか。さあて、金貨の山を俺も拝むとしよう」



笑うクナドの前に、店員が金貨を積み上げていく。

金貨の数はぴったり五百八十枚。

煌びやかな金の山に、クナドだけでなく、店員も、店内の客たちも感嘆した。


しかしライラは、その光景を楽しむ余裕がなかった。

魔力を使い過ぎたせいか、いつもの眩暈に襲われたのだ。

しかも今回は普通の眩暈ではない。

頭を殴られたような眩暈であった。



「……お、おい。大丈夫か??」



クナドの声が、波打って聞こえてくる。

ライラは「平気です」と応えたが、届かなかった。

必死の形相のクナドが、ライラの肩を揺らす。


薄くなっていく意識の中、ブラムの顔が脳裏に過ぎった。



(ああ、もう。どうして)



心の内で苦い顔したライラは、そのまま眠りに落ちた。

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