魔力
翌日。
妙な違和感を覚えてライラは目を覚ました。
視界の揺らぎはもうない。
逆にスッキリしていると言っていい。
しかしジットリと包むような違和感がライラから離れることはなかった。
「やあ、起きたね!」
明るい声。
ペノがライラの顔の横で丸くなっていた。
「妙な感じがするでしょ?」
「……します。これはいったい?」
ライラは全身を包む違和感に目を向ける。
しかし目に見えるなにかがあるわけではなかった。
ただ気配のようなものが、ライラを隈なく探っている気がする。
「誰かがライラの魔力に気付いたんだ。魔族かもしれないね!」
「魔力? 魔族!?」
「魔力は魔族だけが持っているものだからねえ。きっとライラのことが気になっちゃったんだねえ」
他人事のようにペノが言う。
ライラは初めて聞く『魔族』という言葉に、恐怖した。
身体を探る気配。それが魔族によるものと考えるだけで、身が震える。
ライラは気配を払いのけようとしたが、ペノが静かに制止した。
「まあ、突然何かをしてきたりはしないよ。きっとライラに興味を持っただけさ」
「どうしてそう思うのです?」
「今、ライラの家の前にひとりでポツンといるからね。……んー? これは、いつもメノスの村にいる、あの魔族だねえ?」
「……え、どの魔族? メノスの村にいたの??」
「いたよ? まあとにかく、今までずっと大人しくしてた魔族だ。突然とんでもないことをしでかしてたりはしないよ」
そう言ったペノが、ライラの肩の上にとんと乗る。
ライラは昨夜、着替えることなく眠ってしまったため、そのまま寝室を出た。
前室に行くと、ライラを包む妙な気配が消えた。
ライラが移動したことを察したのだろう。
(もしかしてこのままどこかへ行っちゃうかな?)
別に魔族になど、会いたくはないのだ。
平穏無事に生きていけたほうがいい。
ライラはあれこれ考えながらも、そっと木戸に手をかけた。
見たくはないと願いながらも、魔族の正体を見ておきたいという好奇心が背中を押してしまう。
「……あ」
開いた木戸の隙間から見えた、外の景色。
ひとりの男の姿が、ライラの目に映った。
「なんだあ? もしかしてお前かあ!?」
木戸の先から、男の声。
ライラの視線が、そこにいた男の視線とぶつかった。
「え、あ、あの」
「お前はあの時の、馬鹿なお嬢様じゃねえか!?」
「……え、ば、馬鹿って……?」
突然の罵詈雑言にライラは気圧される。
しかし負けじと睨み返した。
しばらく睨み合っていると、ライラはふと、男の顔に見覚えがある気がしてきた。
「もしかして、宿屋を探していたときに、私が声をかけた人ですか?」
ライラは睨みつつも、首を傾げて言う。
すると男が苛立ったように目を見開いた。
「この馬鹿女。人の顔も覚えられねえのか?」
「ま、また、馬鹿って!」
「馬鹿に馬鹿って言ってなにが悪い。この馬鹿が」
「そこまで言います!?」
ライラも苛立ち、声を荒げた。
初対面だとか、魔族かもしれないとか、どうでもいい。
目の前にいるこの男は、失礼にもほどがある。
ライラは飛び掛かっていきそうになったが、その瞬間、耳元でペノが囁いた。
「ライラ。子供相手になに熱くなってんの。落ち着いて?」
肩に乗っているペノの声。
囁き声なのに、異様なほど強くライラの耳を打った。
ライラは我に返り、すぐさま止まった。
飛び掛かっていきそうな状態であったから、奇妙な体勢で制止する。
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