足にかけて

メノスの村に戻ったライラは、まず倉庫の準備をはじめた。

もちろん、村の大工に頼んで建ててもらっている。



「こんな立派なものをどうするんだい?」



村の大工が首を傾げた。

いくらライラが金持ちでも、少女ひとりで大きな倉庫を所有するのは奇妙だからだ。



「今は内緒です」



ライラは少し考えて、そう答えた。


倉庫を建てることにしたのは、自分のためだけではない。

テロアの街のクナドたちと共同で使うためだ。

代わりに、メノスの村を商売の拠点のひとつにするようライラは求めた。

クナドたちはしばらく考えていたが、前向きに検討すると約束してくれた。


これが上手くいけば、街へ行かずとも楽しく贅沢が出来るだろう。

ついで村人も喜ぶような品も多く入荷されたら、一石二鳥だ。

だが、確実に上手くいくとは限らない。

今後の取引次第では、すべて無しになる可能性だってある。



「まあ、俺は仕事ができればいいがね」


「もしかするとこれ以外にもお願いするかもしれません」


「別の倉庫をかい?」


「いえ、もっと色々なものです」



ライラはなるべく前向きに考えようと、笑顔を見せた。

クナドたちとの関係が上手くいけば、今後は多くの行商人が往来するようになる。

となれば、取引所も必要になるだろう。

宿屋もあったほうがいい。

そうして村が賑わえば、ライラの第二の人生もさらに華やかとなるだろう。


うわの空でニマニマするライラの様子を見て、村の大工が再び首を傾げた。

ライラははっと我に返り、とりあえず笑顔でごまかすのだった。



「自分以外のためにもお金を使うとは思わなかったねえ」



夜になり、ペノが不思議そうに言った。

ライラは「そう?」と首を傾げて、ベッドに腰を下ろす。

寝室に、テロアで買った蝋燭の明かりが煌々と広がった。



「半分以上は自分のためです」


「それなら、誰かを雇って街へ買い物に行かせればいいでしょ?」


「我儘なお嬢様みたいで、それはちょっと……」


「良いと思うけどなあ! ボクは我儘なのも好きだよ!」


「ペノは変な人ばかり相手にしてきたから、歪んでしまったのではないですか?」


「はっはー! ひどいなあ! でも否定はできないね!」



ペノの両耳が左右に振れる。

ライラは困り顔を見せると、ベッドに横たわった。

直後、わずかに視界が揺れる。

この揺らぎは、これまで幾度かあった。

「お金に困らない力」を使い過ぎると、間を置いて具合が悪くなるのだ。



「倉庫を建てるのに、ずいぶんお金を出したからねえ」



ライラの様子に気付いたペノが、小さく笑った。

心配してくれている様子などは、ない。



「一気にいくらでも出せるわけではないのですね」


「出せるけど、気は失うかもね!」


「それは困ります」


「まあ、今のところはこんなものだよ。力に慣れていないだけだからね」



そう言ったペノが再び笑った。

甲高い笑い声が、ライラの視界をさらに揺らした。

ペノがまだ何か喋っているようであったが、聞こえなくなる。

やがて睡魔がライラを覆いつくした。

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