これからもう一度
生き返ってから一日目の終わり。
その日の最後の仕事は、宿を探すことであった。
簡単に見つかるだろうと思っていたが、目論見は外れた。
そもそもこの村に、まともな宿がなかったのである。
「あるわけねえじゃねえか。どこのお嬢様だ、お前はよ?」
宿がないか尋ねて回って、四人目。
背の高い男が嘲笑うように言った。
「ここいらは行商ルートからも外れてんだ。宿屋なんて儲かりゃしねえよ」
「そう、なんですか……」
「どこぞの厩の片隅でも借りてろ。もしくは野宿だ」
「わかりました。どうもありがとうございます」
ライラは礼を言い、頭を下げる。
背の高い男は片眉を上げ、ライラの顔を覗き込んできた。
「本当にどこぞのお嬢様なのかい」と笑いながら。
しかしライラは気にせず、再び礼を言って男から離れた。
ライラが離れていったあと、背の高い男はもう一度片眉を上げた。
「妙だな」と呟き、ライラの後ろ姿を見る。
しかしすぐに飽きたのか、男は翻ってその場を去った。
(さあ、どうしよう……?)
途方に暮れたライラは、村の中を彷徨った。
野宿をするにしても、ライラには火を熾す知識すらない。
身体を包む布を買おうにも、すでに夜。どの店も閉まっている。
仕方なしと、ライラは恥を忍んで昼間世話になった女の家へ行くことにした。
最悪でも一晩、家の隅を借りられたらいい。
「……早速来てしまいまして」
ライラは女の家に着くや、恥ずかしそうに言った。
しかし女はライラの肩ととんと叩き、笑顔を見せた。
「いやあ、実はうちに泊まりなよって言おうと思ってたんだよね」
「え?」
「行く当てがあるように見えなかったからさ。まあ、一晩二晩くらいなら構わないよ」
「あ、ありがとうございます。助かります」
「いいさ。縁があったんだねってこと」
女が再び笑顔を見せる。
ライラはほっとして、今日一番深く深く礼をした。
女の名は、ソフィヌといった。
夫とは死別し、ひとりで暮らしているという。
ライラは余っているらしい部屋を借り、そこで休んだ。
ソフィヌには一泊分として銀貨を手渡した。
「ああ、疲れたあ」
ライラはベッドに横たわり、長く長く息を吐いた。
ようやく一日が終わる。
生き返ってすぐ、全裸で地面から生え、見知らぬ世界、見知らぬ村を彷徨い歩いた。
濃密すぎる一日であった。
「これからこの世界で、もう一度人生をやり直すのね」
漠然とした想いを抱き、ライラは目を瞑る。
一瞬で睡魔に襲われ、意識が揺らいだ。
眠りに落ちる瞬間、ライラは誰かに呼ばれた気がした。
しかし応える余裕は無かった。
ライラの意識は途切れ、夢へ沈んだ。
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