第28話 「鈴木浩生・現る👤」
俺は痛みに悶えながら、うつ伏せになりうずくまって居た。ザラザラしたコンクリートの地面が俺の頬をえぐっていた。ハタとして、右手の
それからどれだけ横になっていたのだろう…。段々と身体は冷えきって、寒さが押し寄せていた。しかし、次第に、痛みは収まりつつあった。身体をブルブルと震わせながら、再びジャケットで身体を包み、身を屈めた。
『そうだ、救急車。いや、まず桃介か美幸に電話しよう』そう思い、ジーンズのポケットに手を伸ばすと、スマートフォンは、確かにあり安堵する。
うつ伏せからゴロリと仰向けになる。右手にスマートフォンを握りタッチパネルを
「プルプルプルプル、プルプルプルプル」
それは、吉田でも美幸でもない、知らない電話番号だった。
『ガチャ』
「もしもし?」
「いま、どこにいる?」
「だ、誰だ?」
「鈴木だ。
「鈴木?! お前、ふざけんなよ!! 杏に連絡先を聞いたんだな。て、てめえ、俺を殺す気か?」
「…な、何の話をしてる? 誰がお前を殺す?! 誰かにやられたのか? 俺は何もしてない」
それから鈴木が、俺の目の前に現れたのは、間もなくの事だった。彼の方から訪ねてくるとは思いもしない展開だった。
遂に、俺と、容疑者・
彼は一人で現れた。確かにその風貌は、来河から聞いた印象そのままだった。色白の肌、神経質に整えられたようなオールバックの髪。勇ましくギラギラとしたような
俺は、痛みが落ち着き、
「…そういうことだったのか。だが、お前を襲ったのは、ウチの組じゃない。そんな馬鹿げた事をする理由がない。それとアンタに話しておきたいことがあるんだ。
「ああ。なんでも聞くよ」
「…俺は…石川舞花に惚れていた。本気だったんだ…」
彼はそう言うと、立ち上がり、俺に背を向けた。背中がわなわなと震えていた。
「好きだった。殺すはずないだろ。女にだらしないヤクザの言うことなんて、信用できないか。いや俺の事はいいんだ。しかし彼女はどうなる? 舞花は俺を真剣に想ってくれていた。真剣に想って信じていた男が、自分を殺すような男だったなんて…。オイ、彼女の目は節穴だったのか? まさか。彼女はそんな馬鹿な女じゃない。彼女は人の本質を見抜くような頭のいい女性だった。舞花は、いつも真っ直ぐに、俺を見てくれていたよ。だから彼女の名誉のためにも言う。俺は断じて、彼女を殺していない。そして彼女を殺した奴を、俺は絶対に許さん」
「ああ。わかった。信じるよ。
「信じてくれるのか?ありがとう。…今車でオジキが待ってる。一緒に来て欲しい」
「オジキ?菊桜会の組長か?」
「そうだ。おい
突然、鈴木が闇を切り裂くように大きな声を発した。すると視界の先、電柱の影に身を隠していた少年のような小柄な坊主頭の男が俺の目前に、矢の様に素早く現れる。
それから彼は、俺の身体を軽々と起こすと、俺に肩を貸して歩き出した。小柄ながら中々の力持ちだ。
「鈴木な、俺も聞きたい事が山程あるんだが…。とりあえず病院に行きたいんだけど…」
「ああわかってる。病院に連れて行く。近くに顔の利く医者がいる」
「そ、そうか。ありがとう」
たどたどしく歩いて行くと、プラタナス通りに、如何にもという黒塗りのベンツが停車していた。
促されて俺は後部座席に乗り込む。後部座席には、既に一人、角刈りの白髪頭。やや小太りの初老の男性が静かに鎮座していたのである。
優しい探偵RE
2024.12.12
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