第14話「宇野来河の秘密」📷

 宇野来河うのらいかは、美幸が一人で無いことにやや落胆した表情を見せながらも、その後、初対面としては驚く程ざっくばらんに鈴木浩生について話しをしてくれた。


 学生街は混み合っていて、どの店の入口にも順番待ちの人が溢れていた。僕らは大学周辺をうろうろ放浪した結果、新御茶ノ水ビルディング内の「御茶ノ水サンクレール」に辿り着き、そのモール内のステーキチェーン店で宇野の話を聞くことにしたのである。


 僕らはメニューの中では比較的リーゾナブルなステーキランチを揃って注文することで落ち着く。


 「浩生とは、野球サークルで一緒だったんですよ」 


 「今28だっけ?卒業して五年は経つんでしょう。君らは仲がいいんだな」


 「いえいえ。警察にも話したんですけど、会ったのは最近になって、です。最近の彼のことは、実は全然知らないんですよ」


 「ん?そうなのか?!」


 「そう最近です。僕も事件のことは

警察が自宅に訪ねて来て、初めて知ったんですから。びっくりしましたよ。今年の春先に再会して驚いていたら、記憶も新しいうちに警察が来て…」 


 「なるほどな。でも、なんでまた最近急に鈴木に会ったの?」


 「まあ聞いてくださいよ。うちの野球サークル、同期の繋がりがとても強くてですね…年に何回かは、飲み会やってたんすよ。池袋に『得々屋とくとくや』って中華屋があって。安くてボリュームあって美味いんす。僕らの定例会は池袋のそこって決まってるんで…」


 「そこに浩生が久しぶりに参加したってこと?」


 「いいえ。ちょっと最後まで聞いてくださいね。その飲み会で、僕らがいつもの感じで盛り上がってたら、横の席から『来河じゃないか?』って浩生が声かけて来たんすよね」


 「凄い偶然だね〜。そんなことあるんだ〜!短大の友達なんて、しばらく会ってないな〜。いいよね〜、卒業しても繋がり有るって」


 「なんで直ぐ分かったんだろう?」


 「店に入ってきた時に、目の前で僕が『明大ヤンキースで予約している宇野です』言ってるの聞いたとかで。当然、盛り上がるじゃないですか」


 「そうだよね。卒業以来なんでしょう?浩生も宇野君みたいにフレンドリーなのかい?」


 「いや全然。声をかけてきたのが不思議な位です。人付き合いが良いタイプじゃなかったすね。今思えば、良く話してたの自分くらいなんじゃないかな。自分キャプテンしてたんで、わけ隔てなく話しましたから。ただ浩生は女性にはモテたかな。メンバーみんなが憧れてたマネージャーと付きあってましたからね」


 「へ〜!彼イケメンなの?イケメンの野球選手ってかっこいいよね〜!」


 モテたと聞いて美幸は、勝手にイケメンと決めつけると、その目をキラキラと輝かせていた。こういう時、美幸は、キャーキャーとうるさい。


 「イケメン…そうそう、古い感じのイケメンかな。色白のオールバック。なんか野生的というのか、ギラギラしてんすよね。野球は、抜群に上手かったですよ。彼が出ると試合締まりますから。その点では、アイツに随分と助けられましたよね」

 

 「因みに浩生はどこを守ってたの?」 


 「キャッチャーですよ。肩が強くて相手チームがザワつくレベルでした。打撃も大きいの打ちましたよ」


 「運動神経いいんだなあ。宇野君は因みにポジションはどこを?」

 調査と全く関係ない興味本位の問いである。


 「浩生が居たから譲りましたけど僕、実はキャッチャーなんですよ」 


 「そっか…」

 僕ら二人は、予想していたポジションと同じだった事に、静かに納得していた。


 「あと…石川舞花さんって女性わかるかい?君は一度は会ってるはずなんだ。リコリスで。リコリスは分かるよね?」


 「ええ。店も、舞花ちゃんも知ってますよ。舞花ちゃんには、さっきの中華屋からハシゴして浩生に連れて行かれたんですよ。彼女とリコリスで初めて会って…かなり浩生と親しいのはわかりましたよ。ただ…」


 「ん。ただ?」


 「…いや、警察には言わなかったんですけど…浩生のマンションに行ってるんです…。その初めて会った日に酔いつぶれて、タクシーで浩生のマンションに一緒に連れて行かれて、そのまま泊まっちゃったんですよね。…そしたら、杏ちゃんがその浩生のマンションに丁度、来てて」


 「杏ちゃん?又ホステスか何か?」


 「いいや、それがさっき話した野球サークルの憧れのマネージャーですよ。卒業後も、まだ続いてたんだって、びっくりしちゃいました。杏ちゃんには、もちろん舞花ちゃんの話は黙ってましたけどね」


 「そんな長い付き合いの彼女が居たのか…。いやまあ、二股なのかどうなのか。でも、何でまた警察にマンションに行った事を言わなかったの?」


 「いや、探偵さんには、正直言いましたけど、いきなり実家に警察が来て、浩生が容疑者になってるって聞いて、怖くなっちゃって。僕も面倒くさい事に巻き込まれたく無いですから。もし『家に行ったことある』なんて話したら、親しいだろうと思われて、警察に連れて行かれるんじゃないかって思って、極力、知らないで押し通したんですよ。だけど…何かずっとモヤモヤしてました。今、正直に話せてホッとしましたよ」


 「そういうことか。まあ気持ちはわかるよ。誰だって、いきなり自宅に警察が来て話を聞かれたら怖いよな。まして殺人事件だろ。君は嘘がつけないタイプなんだな。俺も同じだからわかるよ。苦しかったよな」


 丁度そのタイミングで、注文した品がキッチンワゴンに載せられて運ばれてくる。ステーキ皿の上には、きれいに菱形の焼き目がついた美味しそうなステーキが三人分、ジュージューと賑やかに騒がしく音をたてていた。

 お腹がちょうど空いていた。

 

※次話へ続く


優しい探偵RE

2024.1.1 元旦


 

 





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