第13話「明応大学」🧑‍🎓

 3人で過ごした穏やかな日曜日の翌日、僕等は早速、丸ノ内線・御茶の水駅から直ぐの東京6大学に属する名門、明応めいおう大学へ出向いた。

 朝方に雨雲に覆われていた空は、駅に到着した11時頃には晴れ間が広がっていた。僕となったのは、美幸も同行していたからだ。

 美幸は平日休みだった。俺は一人で大丈夫だからたまの休みくらいは休むよう説得したのだが、美幸がどうしても来ると言って聞かなかったのだ。仕方なく連れて行く事にした。しかし、結果的にそれは功を奏する。



 宇野来河うのらいかの在籍する学部事務室は地上23階、高さ120mの巨大なタワービルの4階にあった。

 入口には警備員が立っていて、一般人が入って良いのかは怪しい。

 ただ僕等もそこは事前に考えていた。営業的サラリーマンにふんし、コートの下は、ビジネススーツを着込んでいる。万が一に警備員に呼び止められたら大学OBなのだと言えばいいか、そんな風に楽観的に考えていた。

 しかしだ。いざ若い学生で溢れるアウェイな雰囲気のビル内に侵入すると、僕らはやはり落ち着かない。さらにエスカレータに乗って、4階の事務室ドアの前までくると、俺はややドアを開けるのに躊躇ちゅうちょした。


 「やっぱ…何となく美幸が行く方が男性よりも警戒心持たれないし、上手く行きそうじゃない?まず美幸一人で行ってみてくれる?」


 「そう?じゃあ…私に任せて!行ってくるよ!」

 美幸は、中々にして大胆不敵なのだ。美幸はバックからメモ用紙を取り出すと、ポールペンで何やら文字をさらさら書いていた。そして薄茶色のウールコート脱いで俺に手渡すと、ドアを開け室内に入って行く。ガチャリ。


 「すみませ〜ん。いつもお世話になっております。私、朝比奈と申しまして、本日、宇野様と11時にお約束をさせて頂いております」

 美幸は丁寧に一礼しつつ、堂々とデマカセを言った。

 「宇野ですね。少々お待ちください」

 窓口に居た美幸と同い年位の女性が静かに対応すると、奥に居る体格のいい男性に声をかけている。

 「はいはい。お待たしました。宇野です。えっと…失礼ですが、どちらの〜?朝比奈様でしたかね?」

 ニコニコしながら出てきた宇野は、ふくよかな体型だが、目がパッチリとしていてどこか愛嬌ある雰囲気の男性だ。パーマ掛かった髪は、整髪料によるツヤがあるものの、何故かまとまらずボサボサしていて、オシャレなのかズボラなのかどっちつかずのヘアスタイルに見えた。


 想像していたDJとはちょっと違っていて、美幸は心の中でやや首をかしげつつ、あらかじめ書いておいたメモ見せる。


 《私は探偵です。お友達のスズキヒロオさんのお話を伺えませんか?》


 そして小声でこう付け加えたのだ。

 「ランチでも食べながらどうですか?」


 そして、にっこりとする。美幸の魔性の微笑みで、とどめを刺したのである。 


 「はあ、、、なんだアポ無しじゃないですか?強引だなあ。ま、まあいいですけど…。ただ、大した事、僕は知りませんよ」


 「何時が、ご都合宜しいですか?」


 「じゃ、ちょっと遅くなりますが、、、13時半にこのビルの入口前にいて下さい」


 「適当なお店見ときますね。では後ほど〜」

 美幸は終始コソコソした口調で話し切ると、俺が待っていた事務室のドア前に、足取り軽く舞い戻る。


 「で、、で、どうだった?」 


 「オッケーだよ!」 

 美幸は、満面の笑みで、親指と人差し指でオッケーサインをつくって見せたのである。



優しい探偵RE

2023.12.30掲載

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