第10話「クラブ潜入調査❷」🥃
「…そうだよね。いやごめん。大変申し訳ない。正直に言う。実は俺達こういう人達なんだ」
俺はそっと二人に名刺を見せた。
『あなたの街の優しい探偵 大塚木村探偵事務所 代表 木村玲 ®️』
「実は、鈴木浩生と舞花さんの関係性を調査してる。舞花ちゃんを殺した犯人を突き止めたいんだよ」
「なんだ、探偵かあ〜。犯人って捕まってないんだっけ?ヤバくね?」
「浩生は証拠不十分で釈放。警察でも調査が難航してるみたいだよ。僕ら、個人的に舞花ちゃんの親しい人から調査依頼されててね、お店を通じて女の子に聞き込みしたら、何かと面倒くさいじゃない?警察じゃないから強制では聞けないしね。嘘を言ったのは悪かったけど、そういう大人の事情なんだ。協力してくれないかな?お礼はする」
「うん。全然、協力してあげるよ。同じ店の女の子が殺されて、犯人捕まらないなんて、超悔しいじゃん。ねえ、ゆいかさ、アイサの店、ラインで聞いてあげなよ!」
「うんわかった。するする!してみるよライン。私も犯人捕まえて欲しい。じゃなきゃ舞花ちゃんが可哀想すぎるもん」
「ありがとう。助かるよ」
「コホン。あとですね、さっき浩生の居場所は、わからないって言ってたけどね、例えばさ、会社の同僚とか友達と一緒に店に来たとかも無いのかな?連絡が取れる浩生の知り合いでもわかると助かるんだけどな」
桃介がもう一度、先程、出てこなかった回答を、聞き方を変え探りを入れた。吉田は、今日は頭がよく回るな。偉いぞ。
「あ、そうだ!」
パチンとあいこが両手を叩いて音を響かせる。
「おっ何?」
「リカの客の常連って、初めて来たとき、浩生が連れてきたんじゃなかったかな?大学の時の野球仲間とかって。私とリカと舞花。そう、ゆいかもいた。みんなで席着いたじゃん?」
「あっ思い出した!リカのお客さんね。メガネかけたDJ」
「あ、そうそうDJみたいなやつ。でもDJじゃないよ。浩生と大学が同じで、一緒に野球やってて…。そう。今はその自分の卒業した母校の職員って。確かそう言ってたよ!」
「二人とも記憶力いいね。それどこの学校かまでは、わからないかな?」
「明応大学。私、受験したから覚えてんだ」
「ん? あいこちゃんって今大学生なの? 明応受けるなんて、頭いいんだな」
「馬鹿でもないけど、こう見えて学生とキャバと芸能と超多忙だよ…。学費とかも稼がないとなんだよね」
「そっか。がんばってんじゃん。職員って言うと大学の学務課か教員か…。名前まではリカちゃんじゃないと知らないよね?」
「名前は、わかんないな」
「オッケ。じゃ整理するよ。まずあいこちゃんは、リカちゃんに、その浩生の友達の客の名前を聞いて僕らにラインで教えてほしい。あと、ゆいかちゃんは、アイサちゃんから今勤めてる店の名前を聞いて教えて欲しい。お礼はするからさ」
「任せといて。大した仕事じゃないしお金はいいよ。今日指名して、延長もしてくれてるんだしさ。その代わり…」
「…ん、その代わり何?な、なんか怖いな」
「ぜってえ探偵、犯人捕まえろよな〜〜!!」
「…も、もちろんだよ。でも、やっぱりアイコちゃんって、いい子だったんだな…(呼び捨てなのは引っかかるけどな)」
「やっぱりって…」
リコリスの夜は更けてゆく。まばらだった店内は、ほぼ埋まりつつあった。キャーキャーとした若い女性の甲高い声と男達の太いがなり声が混じり合う。タバコの煙が充満しはじめていた。カラオケが始まり、誰かが近頃よく聴くbacknumberの水平線を歌っている。
俺は感じていた。舞花は、確かにここに存在して居た。親しい仲ではないにしろ、彼女達のそれぞれの心の中に、彼女達の想うそれぞれの舞花が居た。
人の出会いはその殆どが「一期一会」である。多くの人が自分の横を通り過ぎていくなか、出会った仲間に想いを寄せる彼女達の気持ちが嬉しいではないか。菜月さんにも伝えてあげなくては…。
そして俺は、誰に伝えることも出来ず封じ込まれ、埋もれてしまった舞花の叫び声を必ず
ここは大塚、俺は街の優しい探偵だ。
(隣の池袋だけどね)
優しい探偵RE
2023.9.20
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます