第3話「公園の『想い』」🍀
その小公園の入り口は、見事に封鎖されていた。
公園周辺の路上には所狭しとパトカーが
夜の闇は暗いが、街灯と警察の用意した
公園の周囲は、低い植え込みと低い鉄柵に四方を囲まれている。俺は足早にその外周をぐるりと周り、様子を観察した。
小さな公園は簡単に一周出来てしまい状況を直ぐに把握できた。公園のやや中央付近にある「多機能トイレ」がこの人だかりの
俺は、やや強引に人混みをかき分けて、最前列の、トイレ近くの警官の動きが見える位置の柵の前で立ち止まる。美幸も息を切らせついてきていた。
前列に出ると、紺色のよれたジャンパーに、ツクシの頭の様な緑色のニット帽をピッタリと被った小柄の男性と目が合った。
男は、煙をくゆらせて一服中で、男と周囲の人には一定の距離感があった。俺はその異彩を放つ男性に
「ちょっとすいません。何があったんすかね?ただ事ではないっすよね?」
「おっおおお?!な、なんだよ。暗闇で急に話しかけんなよあんちゃん。おお綺麗なお嬢さんだな」
「すいません。失礼しました」
「ちょちょっと、れいさん。何で急に知らない人に話すわけ?」
俺の背後で美幸が小声で
「痛っ」
「ごめんなさい」
謝ったのは俺にではない。その男にである。美幸は恥ずかしそうに軽く会釈する。
「いや、いいけどよ。ほらそこさ。トイレがあんだろ?あそこでなんかあったんだろな」
男は、煙を吐きながら話す。話し出すと外見よりも若いのがわかる、60代前半だろうか。
「トイレの中、見たんですか?」
「い、いや、見てねえよ。お、おれはさ、この時間は散歩の時間なの」
「お近くなんですね?」
「そう。池袋に40年住んでんだ。歩いて15分圏内かな。まさか怪しいもんじゃねえしな。ほら、そこのベンチがあんだろ。一息つくのにいつもあそこに座るんだよ。丁度、目の前で警官がさ、入り
男の声が自分の話す勢いでだんだんと興奮してきているのがわかる。
その時、救急車のサイレン音が、公園付近に近づいてくるのが聴こえた。間もなくしてヘルメットを被った救急隊員が
数分で、担架を運ぶ男達は出てくる。僕らは一部始終を見つめる。担架には、白いシートが全体に被せられていた。
一瞬、強風に煽られてバサバサと音を立ててシートがめくれると、細くて
「ちょっと道を開けてください〜!」暗い喧騒の中でもその叫び声は一際響いた。救急車に担架は運び込まれドアは閉められる。
―――それから、救急車の高い金切り音と、低いサイレン音が交錯しながら、あっという間に深夜の池袋の街を抜け、遠ざかっていく―――
「凄いとこに遭遇しちゃったな…助かるといいんだけど…」
「もう亡くなってる」
「はっ?!なんでわかるんだよ?!」
「わかるよ。担架が目の前を通った時に何か亡くなる前の人の悔しさっていうか、「
「あ〜。たまに出る美幸の感じやすいやつか。死ぬ人間は誰でも未練あるだろ。納得して亡くなる人なんていないよ。それ霊感って言うの?非科学的だな」
「わたしわかるんだもん!うちのママの血筋はみんなわかるのよ…」
「あっいや、ごめん。美幸が言うんだから否定しないよ。付き合わせて悪かった。もう帰ろう。終電無くなるぞ」
「…私なんか気分悪くなっちゃった…」
美幸は、少しよろけてその場にうずくまってしまう。
「えっ?!大丈夫?!タ、タクシー使おう!今日美幸の家に行っていいなら一緒に付いて行くから。美幸、顔色が悪いよ。ごめん。俺が悪かった。あっそうだ救急車呼ぼうか?」
「ちょ、ちょっと、冗談言わないでよ!簡単に救急車って呼べないんだよ!」
「いや本気だって!」
「バカ…」
俺は美幸と大通りに出ると、急いでタクシーを拾い、車に乗り込んだ。
霧雨から始まった一日の終わりは、冷たい風の吹きつける深い闇夜だった。空には、灰色の雲がゆらゆらと流れ渦巻いている。
この暗く深い夜が、この長い長い壮大なストーリーの始まりになるとは、僕らは、このときまだ知る由しもない。
優しい探偵RE
2023.6.26掲載
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