第2話「拉麺と美女そして事件」🚓
季節は冬の足音が聴こえ始めていた十月の下旬、その日の大塚の街は朝から深い
古びたビルの事務所の窓から街並みを見下ろすと、灰色の道路に信号や標識、看板や人々の持つ様々な色あいが混じり合い、
自己紹介である。俺の名前は、
その日は、調査依頼の面談もあり、程々に忙しく過ごしていた。
ただ、夜に
―――さて時は経過して深夜22時30分、池袋東口サンシャイン通りである。俺と美幸はTOHOシネマで待ち合わせてレイトショーを鑑賞した帰り道、サンシャイン通りを興奮冷めやらぬまま話しながら歩く。向かうは、熊本県出身の彼女がこよなく愛す熊本ラーメンの
その店は、映画館の裏手通り。複数のラーメン店がひしめき合う一角にある。店内に入ると客はまばら。二つのテーブルは埋まって居たので、カウンターに僕らは肩を並べて座る。
程なくして少し小ぶりで深めの器が僕らの面前に置かれると、俺には
キッと目付きが変わり手際よく後ろ髪をヘアゴムでまとめると彼女のほっそりとした首すじが
それから美幸は、大胆に麺を
「やっぱ熊本ラーメンは、うまかね〜!ん?……れいさん食べないの?」
「…」
直ぐに返答出来なかった。それはつい彼女に見とれてしまっていたからなのである。実は、この朝比奈美幸こそが9歳年下の俺の恋人になる。この美幸という女性…何故自分の彼女なのか、付き合ってはや一年になるのだが、未だよくわからないくらいの美女なのである。
「…あっ。いや、食べるよ食べる。俺はスープから行くタイプなんだ、うんうん、やっぱ深夜に食べるラーメンって最高だよなあ」
俺は慌てて反応を取り
「しかし美幸がラーメン好きで良かったよ…。そういえば
俺は、美幸が食べ終わりそうなタイミングで話しかける。桃介というのは、俺と事務所で同居するルームメイト
「ふ〜ん、そうなの?」
「あ、わかんないかな~?まあしかし俺は、桃介がたまに言う、そういう根拠もない確信めいた言い方って言うのかなあ。結構、納得しちゃうんだよな」
「桃ちゃんって看護師さんだし頭いいんじゃない?」
「そうだな、授業中は、いつも寝てばかり居たけど点数はそこそこ取ってた。要領もいいんだろうな」
実は俺は四年前まで、私立高校の社会科教諭だった。熱意は人一倍あったが余り要領の良い教員では無かった。
いつも教務主任に嫌味を言われていびられていたクチだ。実は助手の吉田桃介は、その教員時代の教え子という関係性になる。
「でもさ桃ちゃんて、どっか不思議なとこない?」
「確かに。俺も人の事言えないけど天然かな」
吉田はちょっと面白い雰囲気を持った男だ。真面目なのか不真面目なのか何か掴み所がない。しかし努力家ではある。看護学校時代、国家試験の受験勉強を死にもの狂いで勉強していたのを俺は知っている。
「でもさ、考えれば、桃介居なきゃ今の俺はないんだ。彼には感謝しかないよ」
「うん…そうだったよね」
美幸は深く頷く。吉田は俺が探偵を開業した時、病棟看護師として五年目を迎えていた。彼は中堅ナースとしてこれからやり甲斐も面白みも出てくるだろうタイミングであっさりナースを辞め、俺と一緒に探偵事務所を立ち上げてくれたのである。
「思い出したけど、美幸の引っ越しはいつだったっけ?」
「えっ、ちょっ、言ったじゃん!来週の日曜だよ!」
最後にスープを豪快に飲み干した美幸が、「ドスン」とラーメンどんぶりをテーブルに置くと、やや声を荒げて言った。
「ご、ごめん。聞いてたっけ?あ〜俺はなんて記憶力が無いんだろうか。明日、朝イチで
俺は、何かわざとらしく自分の頭をパツンパツンと叩いて美幸に反省の意を示す。
荒井さんというのは探偵事務所のビルの家主、管理人だ。口の達者な面白いおばちゃんで、日常的に親しく
そして美幸の仕事は、総合病院の医療事務だ。都内で一人暮らしをしている。近々、探偵事務所を手伝うという理由もあり、事務所の入ったビルの別室に転居してくる予定になっている。
それは、俺と美幸の実質、
「私ソッコーで色んなもの整理したんだからね。もう大変だったよ〜!」
「お疲れ様でした。ごめんね、忙しくて手伝えなくて」
俺は気遣う言葉をかけながら、美幸が事務所の仕事に関わってくれる事に実は期待と心配と半々でいた。美幸は、時にストレートに物事を言い過ぎる。
「吉田と仲良く頼むよ」
「桃ちゃんとなら大丈夫でしょ。私、病院に毎日行くんだから、週末しか事務所に行かないんだし」
「むしろそこな。たまにしか来ないのに、あれこれと指摘しないことだよ」
「確かに私ズバズバ言っちゃうとこあるからな~。よく言われる〜」
「分かってたら良いんだけど…うん」
美幸が素直に忠告を聞き入れてくれた事に少し安堵する。
それから僕らは直近のそれぞれの予定についてひと通りやり取りすると、分厚いガラスコップに注がれた褐色のプーアル茶をゴクリと飲み干してから上着に身を包む。
そして再び、冷たい風の渦巻く深夜のサンシャイン通りへ思い切って飛びだしていくである。
と、その時だった―――外に出ると、けたたましいサイレン音のパトカーが僕らの目前を物凄い勢いで通り過ぎていった。
それも続け様に三台のパトカーが通り過ぎたことに僕らは圧倒される。
点滅灯の残像が視界に残り頭がクラクラした。尋常ではない状況を察知した俺と美幸は、その場に立ち止まり顔を見合わせるのだ。
「まさかテロとか…じゃないよな?何があったんだろ」
「テ、テロ?!えっ、怖〜い!どうしよ〜!?」
俺は、パトカーの行き先を目を凝らして追った。記憶に間違い無ければ、確かその方向には小さな公園があった。何か事件がそこで起きているのだろう、視線の先に少しずつ人だかりが出来ているのがわかった。
俺は、美幸の手をギュッと握るとそちらへ無条件に足を向けてしまう。
「えっ、ちょっとれいさん!何しに行くの?!帰ろうよ〜!」
「いや何か気になる。あと美幸を独りで帰らせるのも心配だよ。結論から言うと、ちょっとだけゴメン、付き合ってくれない?大丈夫、少しだけだからさ」
「はあ?大丈夫って、なんで解るのよ!単なる
「まあそうとも言う…」
「もう!意味わかんないからっ!!」
俺は、時に強引、または時に自己中心的な困った人間なのである。
こうして美幸を巻き込みながら俺は深夜の暗闇の先にある
優しい探偵RE
2023.6.17
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