第128話 現代人は魔王と対峙する

魔王が封印されているという洞窟捜索活動14日目でようやくそれらしき洞窟を発見し、中へと侵入するとダンジョンになっていた。まあ異世界ギルドストーリーで出て来る魔王なんだからダンジョンの奥底にいるよな。


ただここまで捜索するのが大変だったから自分はわりと苛立っている。そしてうちのパーティー面子は自分の感情が伝搬するようなので全員イラっとしてる。


とりあえずスーに対してダンジョンの地面への光線ぶっぱを許可し、ダンジョンの根本を否定する破壊を行う。アリエルの街の101階以降はまだ破壊出来ないけど、穴が空くようにはなったからその内アリエルの街のダンジョンでもショートカットは出来そう。


そしてこのラスボスが居そうなダンジョンは、アリエルの街の100階以前と同じように、豆腐に箸を突き刺すレベルで簡単に穴が空く。……というか一発で底まで突き抜けてるなこれ。何階まであるんだ。


穴が空いた後はハルに抱えられて下へ下へと移動するけど途中で見える敵は普通のダンジョンと変わらない。だけどたぶん若干ステータスが向上している。これはアリエルの街の101階以降と同じ仕組みかな。まあ階層+10レべぐらいの感覚だから弱いけど。


降りる最中は階層の数を数えていたけど底に辿り着くまでに99階層あったのでたぶん100階までのダンジョン。アリエルの街のダンジョンと同じか。最下層の最奥には、アリエルの街のダンジョンにも居た光の球の、黒いバージョンがある。黒いのに光っているって凄い不思議な光景だ。


……えー、女神が確かこの中に居たはずだから、魔王もこの黒い球の中にいるということで良いかな?


「ルー、斬って良いぞ」

「はーい」


ルーが戦闘モードに入って複数の魔剣を浮かし、その内の一刀で黒い球を切り裂くと黒い煙が周囲にまき散らされる。既に結界は張っているからその煙はこの結界の中に入って来ないけど、アメシストが解析したら普通の毒だった。普通の人間でも数分は耐えられるレベルの毒とのことなので、鬼畜なラスボスではなさそう。


しばらくして中から現れたのは、巨大な黒い人間の形をした何かだった。敵を認識した瞬間、スーの極太光線が放たれて人型を呑み込み、人型は跡形もなく消え去る。


……あれ?ジュウって鳴って消えたけどもしかしてワンパンで終わった?やっぱり明らかに実力差あるからちょっと攻撃はストップをお願いします。


シュンのゲームの知識から、一度コイツがリザレクションしてくるから最初はワンパンするつもりだったけど復活する気配がねえ。跡形も残さずに消したら復活してこないのか、単に復活含めて1度の攻撃で2回殺しちゃったのかのどっちだ。


「復活しないなら最初は会話フェイズから入るべきだったな」

「いえ、一応黒い霧が集まってまた人型を形成しようとしています。凄く遅いですが」

「……マトンはこう、良い感じに腕伸ばしてアレを拘束出来る?」

「もちろんです」


復活しないことに少し慌てたけど、マトンが人型に黒い霧が集まっていることを感知したので拘束を実施。黒い霧が集まって、その後実体を持つ辺りは魔王っぽいけど何で実体を与えちゃったんだろう。


「&$&%#*-*&+&!?」

「あ、キューは会話出来るか試してみて。念話なら意思だけ伝えられるんでしょ?」

「分かったのじゃ」


なんか会話が通じてないけどゲームだと台詞はない。ただ魔物を召喚する能力があり、魔王に相応しいステータスをゲーム上では持っていたそうなので一応強い敵……なのかなあ。


これで魔物を操る能力とかあったら自分は絶体絶命のピンチだったけど、そもそも今までも洗脳とか魅了を使って来る魔物はいたわけだしそれらに対してレジスト出来るうちの面々がこの魔王に対してだけレジスト出来ないというのは考えにくい。大体神かそれに準じた存在になっているわけだし今更操られることはないだろう。


とか思ってたらマトンの方にも黒い霧が纏わりついてマトンの動きが止まる。あれこれ結界貫通してないか!?そしてマトンがこっちを見るけど目が虚ろなの止めてくれ。


「乗っ取られた……?」

「いえ、魔王は乗っ取ろうとして逆にマトンさんのお腹の中に捕まりました。今マトンさんは乗っ取られたフリをしてご主人様にいかがわしいことをしようとしています」

「サンキューアメシスト」


もしかしたらピンチかもしれないと冷や汗を掻いたところで、アメシストの無情な読心によりマトンの悪巧みは白日の元に晒された。一瞬マジで焦ったから正直勘弁して欲しい。そして魔王は今、マトンのお腹の中と。


「……バレては仕方ありません。

アメシストは魔王の魂を包んで捕らえられますか?」

「可能かわかりませんがやってみましょう」


なんか魔王の魂とか言い出したけどこの子ら怖い。ちょっと様子を見てるとアメシストの腕がマトンの口の中に入って……しばらくすると黒い霧をスライムで包んだようなボールが出て来た。どうぞと渡されるけどこれが魔王かあ。


恐らく出てきませんとか言ってるけどスライムの中の黒い靄は滅茶苦茶暴れているように見える。まあ封印を解除されて、乗っ取ろうと思った相手に腹の中に閉じ込められて、スライムボールで捕獲されたら誰だって暴れるか。


キューは意思の疎通を拒否されたようだし、たぶん会話はしないタイプの魔王。……これどうしよう。いずれ復活する封印を解いちゃったわけだけど、もう一回封印しておくか。

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