第97話 現代人は安堵する
「ご主人様がお眠りになりました。私の枕で寝る以上、明日の朝までは熟睡しているでしょう。起きる可能性はありません。
また、直接触れていることにより、今までよりも鮮明に夢を操ることが可能です。本日から2回は夢精させることが可能ですね」
「今日はアルの番じゃな。……アメシストは良いのかの?」
「私はご主人様が幸福であればそれで構いません。……前まではムー様がこういうことをしていたとお聞きしていますが、どういう夢が多かったのでしょうか?」
「……私に対しては読心出来ないのね。まあ普通よ。登場させた回数ならルーとローが一番ね。夢の中でも受け身だから、積極的に密着させに行ってたわ」
トーヤが眠りにつくと、魔物達はトーヤの周りに集まって雑談を始める。……昨年まで男子高校生という、性欲の強い時期のトーヤが好意を抱く女に直接手を出すのを我慢出来ている最大の理由として、既にトーヤは魔物達側から手を出されていた。
そしてそのことをトーヤは気付いてしまっている。粘性でどこからでも水分を摂取できるようなスーと違って、ハルは卵生でナージャに至っては卵胎生である。きちんとそういう行為か、それに準ずる行為をしないと子供は生まれないため、寝ている間にあれこれされているのを可能性の1つとして考えていた。
トーヤは夢を操られ、いかがわしい夢を毎晩見させられているが、その後に熟睡をしているため朝にはいかがわしい方の夢の記憶はない。毎朝すっきりした目覚めのトーヤは、寝ている間に何かをされていること可能性に気付きつつも、気付いていないフリをしていた。
なおアメシストの登場により、トーヤが気付いているのに気づいていないフリをしていることも魔物達は共有済みである。よって現状は互いに互いのことを思って気付かないフリをしている状況だ。
「……声もまだ若干発情効果が残っているみたいだけど、この場にいる皆は大丈夫になったし、男に触れて、即死しないようにはなったから直接触れ合ってももう大丈夫だと思いたいのだけど」
「ですがご主人様の懸念は、本人の意図しないところでの能力の制御不能です。……絶頂時でも能力の制御は可能ですか?」
「……怪しいのは認めるわよ。私がそういう状態だからまだそういうことに発展していないのもね」
「マスターの耐久性は一般人の男性と何も変わりませんので、一瞬でも能力制御が出来ない可能性がある内はマスターの生存のため、私が触れさせません」
強い魔物達は、睡眠時間が基本的に短い。トーヤが寝ている間に魔物達が談笑していることについて、トーヤはしっかりとした把握をしていない。トーヤが起きている間は不仲そうに見えて、裏では相互理解を深めており、トーヤの思っている以上に仲は良くなっていた。
「正直もっと色に溺れた生活をしている男だと初見では思ったのでこういう状況になっているのは意外です。世界を滅ぼせる魔物を沢山従えてますし、人としての良心とか無さそうでしたし。う、嘘です。嘘ですから睨まないで下さい!」
なおローが拾って召使いにしているハーフエルフの女も、恐怖心に打ち勝った時は魔物達の談笑に参加をしている。時々迂闊な発言をしては、睨まれて涙目になるところを揶揄われるのがいつもの流れになっていた。
「私もトーヤの指示で戦って来ただけだから、急に世界を滅ぼす力のある魔物って言われてもそういう認識は無いよ?」
「私やルーが剣や盾を浮かせられるようになってからは露骨にそういう不安を持つようになったのか、ムーが夢を操らないと寝ている時に泣いている時もあったんですよ……」
「というか私がリャン帝国の人を殺しちゃった時は凄く寝苦しそうだった。……普段は割り切っていて人としての良心がないようにふるまってるけど、たぶん良心自体はあるよ」
トーヤは特に悲しい過去など持っていないが、現代人として仮面を被るスキルはちゃんと持ち合わせていた。また現代人として育てられたトーヤは『個』の持つ権利や主張を山のように浴びて育った上、コロナ禍でイベントの大半が無かった高校生活を過ごし、社会に出て社会性を育む前に移転したため『社会性』については異世界基準で皆無である。
魔物達は、ある程度談笑をした後は狐状態になって布団に潜り込もうとするキューをローが蹴り飛ばしたり、「一瞬だけ、一瞬だけで良いから触れさせて」というムーをマトンがガードしたり、ルーとハルがコソコソと共用の素材バッグから肉を取り出し焼いて食べたり、スーとナージャが新たに生まれた子供で遊んだりと、思い思いの時間を過ごす。
「……アル様、近づきすぎです」
「だって1週間ぶりだし……あっ、そろそろかな?」
今日もトーヤは、ぐっすりと眠り、翌朝を迎える。時々家が破壊されていたり、天井に穴が開いてたりもするが、まずはそういったトラブルがなかったことに安堵する。そして寝間着が汚れていないこと、何か湿った気配がないことを見て、今日も貞操が無事だったと安堵した。
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