第96話 現代人は鈍感になりたい

浮遊城の足場作りみたいな作業が終わり、仮組みみたいなことをしている真っ最中に労災が発生して1人大怪我をしたけど天使の涙のお蔭で瀕死状況から生き返った。なんか15メートルぐらいの高さから落ちたらしいし、大量に出血もしていたそうだけど、生き返る辺り天使の涙の効果が凄い。


まあ最悪死んだらクイーンフェニックスの涙で蘇生させるけど。一瞬で元の状態に治るなら怪我じゃないのでこの現場に労災はない。


自分は建築の知識なんて、皆無に等しい。現場猫案件について、具体的に何が悪いのかも分からない。ただ流石にカラビナの存在は知ってるし、構造も単純だからサウイマ商会に量産して貰って配布しよう。


……あれ?カラビナって高所作業の時に使うものだっけ?まあいいや。落下防止用として有用なら導入すれば良いでしょ。労災が頻発して天使の涙案件が続くと面倒だし。


「これがあれば死亡率は下がるでしょう。確かこれは登山用のものですが、高所作業の時にも似たようなものは使用しているはずです。あ、ハーネスだったかな」

「ああ、ハーネスだ。そっちの名前の方が合ってると思う。

量産は可能?」

「とりあえず構造が似ていれば良い、とのことであれば100個程度なら2週間ぐらいですかね」

「この後で本格的に高所の作業が始まるのは結構後だし1ヵ月先に100個、不良品なしでお願いします。あとはロープもかな」


この世界の特許関連も結構面倒なので全部サウイマ商会のケイトにぶん投げる。向こうもこれを見て「あー」と言って思い付いたような顔してたからたぶん存在は知っているだろうし、鋳金が出来る職人を抱えてるっぽいから作れるかな。


なお見本となるカラビナに関してはアメシストに作って貰った。読心能力&変化能力が生きた瞬間である。こういう時はマジで超便利だし、この世界に前の世界の小道具を再現する際には頼ることになりそう。


「ご主人様。あの、ご褒美が欲しいのですが」

「……一応聞くけど何?」

「ご主人様のベッドを私で作ってもよろしいでしょうか?」

「…………んー」

「ご主人様にとって最高の睡眠を保証します!」


そしてこの奉仕種族は、事あるごとに主人の道具になりたがる。今回のベッドになりたいっていうのも性的な意味じゃなくて、本当に自分が熟睡出来るベッドになってくれるのだろう。いや望めば性的な意味のベッドにもなるんだろうけど。


この前なんかはダイレクトに服になりたいとか言って来てたし、無許可時代は勝手にカップになったりしてるんだから小道具になって触れ合いたい欲求みたいなものが強いんだと思う。


流石に服は却下したけど。間違いなく防御力上がるし生存率も上がるだろうけど、向こうもかなり性的に襲うの我慢してそうなのにそこまで受け入れたらアウトだよ。


「……じゃあ枕で」

「ありがとうございます!」


最終的には枕までがギリギリ受け入れられるだと判断。実際この世界に来てから寝具の質は間違いなく落ちたし睡眠の質も同様に低下したから、枕がオーダーメイドになるだけでもかなり変わるとは思う。アークエンジェルの布やフェニックスの羽とかで羽毛布団作っても、前の世界の布団には敵わない。


……魔力が増えたら同時に変化し続けられる品物数も多くなるし、その内小道具は全部アメシストに置き換わる可能性もあるな。


なお新入りが一番主人との接触機会は多くなったことで、ルーやスーやムーは結構不満気な模様。向こう側からの好意が大きい理由としては、もう既に彼女らにとって番いになれる吊り合いの取れた雄が居なさそうというのもある。


どうせ人間の能力に大差ないなら、自身を育ててくれた人と一緒になりたいというアレ。というかスーはもう自分との子供を沢山作ってるし、番いとしか思ってない。ハルとナージャもその点は同様。


……150階突破した辺りで、もう単騎でも世界を滅ぼせる個体が10人。何か1つでも歯車が狂ったら人類滅亡待ったなしは怖すぎるし極力考えないようにしたいけどアメシストが結構グイグイ来るタイプだし積極的に迫って来るのはめっちゃ困る。


たぶん、関係を持ったらローテーションだとかこの日は全員で、みたいな流れになるんだろうけど腹上死待ったなし。あと特大の爆弾であるムーだけ邪険に扱うわけにはいかないのでたぶん関係持つようになるんだろうけど、下手に触れた男性が一瞬で干からびた状態になったのを見て心底恐怖している。


自分なら大丈夫、と思って触れ合って死んだサキュバスのテイマーの話を聞いた時から、100%の安全性を確保出来ない限り誰にも手を出さない決意はしている。……自身の能力を制御する訓練としてか、ムーは休みの日に低層のダンジョンにいるオークに触れては一瞬で大量射精をさせて骨と皮だけにするのを繰り返している。照魔境で覗き見した時には凄い罪悪感を感じた。


性欲がないわけではないが、せっかくの不老になったのに長生き出来ないのは凄く嫌なので関係性はこのままが望ましい。アメシストは自分の考えを読めるなら、本番だけは避けて欲しいと願い続けるだけだな。


アメシストはいついかなる時でも主人の願いを最優先、って感じだから通じていることを祈ろう。……いやでも積極的に小道具になって触れ合おうとしてパーティーメンバーをギスギスさせている点を鑑みるに通じてなさそうだなこれ。

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