第95話 現代人は放置ゲーが好き

半月ほどダンジョンに籠り、180階まで攻略を行い、ついでに100階以降の詳細なマッピング等も行った結果、魔物達の種族が全員+1とか+2の付く種族になったのでSSSランクとかはないみたいだ。


いや一部の魔物にはありそうな雰囲気あるけど、人気のありそうなフェアリーやスライムですら進化先が無いなら相当特殊か、神みたいな存在になれる魔物だけだろう。ルーとかローとか既にフェアリーの神になってるし、他もたぶん神の意味が混じった単語の種族になってると思うけど。


そして半月ほどダンジョンに潜った結果、自分の領地内の人の住む領地部分は荒廃し、権力者が二転三転したらしい。どうやら1回、暴力支配を確立した人が領地全域を支配したみたいだけどそれを達成した翌日に寝込みを襲われて殺され、殺した人も殺され、殺した人を殺した人も捕縛されたみたい。


……一応これでも、最初の村長達はちゃんとした規律ある状態にしようとしたんだけど、やっぱり外部の人を奴隷にしようとしたのが不味かったか。法がない無法地帯ということを利用した暴力支配や外部の人の奴隷化が蔓延し、最終的には復讐の連鎖に発展。領内で紛争が起こり続け、当初は300人ぐらいはいたはずの村人が、外部の人を含めて150人以下になってるのは悲惨。


ただまあ想定しうる最悪の事態には至ってないから、自暴自棄になった人は少ないね。……最初の暴力支配をしていた人を殺したのは、その暴力支配をしていた人に嫁を寝取られた人で、反逆しそうなのによく手元に置いてたなとしか思えない。殺し殺されが続き、最終的にこの領地のトップになったのは外の難民キャンプの取り纏めをしていた人の1人で義を大事にし、正義感の溢れる大男だった。めっちゃ髭生えてるし赤髪だし某征服王に似てる気がする。


この男が凄いのは、復讐の連鎖を止めて殺した人を「捕縛」したこと。これにより、私刑ではなく村全体で裁くことが出来る。しかも寝取られた人を殺した人をこの捕縛された人が殺して、それで捕まったわけだけど、労働力が著しく低下している現状、死刑は不当だとして強制労働で終息させようとしている。


村全体も、もう殺し殺され疑心暗鬼になっていく日々に耐えられなくなっていたのだろう。捕縛した人の意向に賛同する人しかおらず、この有能な独裁者が村全体を支配することに抵抗する人はもはやいなかった。


で、この有能な独裁者は3つの村を統合し、1ヵ所に纏め、1つの国とした。その上で自分のところに挨拶しに来たんだから人として凄くまともな人だと思うよ。


「……税なき豊かな地を提供し、外敵の侵入を阻むトーヤ様に我は一生を尽くすことをここに誓う」

「重い重い重い。そもそもこの地にはルールが無いんだからわざわざ上の人に忠誠とか誓わなくて良いよ」


新しく出来たエワル国(仮)の独裁者の名前はディートリッヒさん。一人称は我。元々リトネコ王国の田舎にある村の村長の1人息子だそうで、でも上にいる貴族が嫌で少なかった領民を全員連れ出しこの地に引っ越して来た人みたいだ。


豪農だったようで、ある程度の蓄えもあったから資産も持っていた。だけどその大半を門の外に置いてこの地に入って、この地で村人達を説き伏せ、時には腕力で服従させ、でも最終的には相手側に納得をさせてから傘下を入れるを繰り返した凄い人。


……たぶん、寝取られた人が暴力支配をしていた人を殺し、その寝取られた人が暴力支配をしていた人の右腕だった人物に殺されることを予見し、信頼できる配下に最後の殺しを依頼したな。そいつを捕縛して、労働刑で許す茶番だったっぽい。


頭は回る。腕力が強い。外観の威圧感も凄い。ちゃんと話し合いを大事にする。説き伏せられる知識や技術も持っている。暗躍も可能。そりゃ最終的にはトップに立つ男だわ。この男が暗殺とかされたらまた逆戻りになってしまうんだけど、この領内の疲弊感から察するにもうそういうことは起きないだろう。


領内環境がこれからは大きく変わらないだろうと把握し、面白そうな騒乱はもうないと踏んだのでとりあえずディートリッヒさんが連れて来た人が難民キャンプの中核となっていた門からは全員を受け入れ、他の門からも1日10人までに受け入れを緩和する。


受け入れの対応なんかはもうディートリッヒさんができるだろうし、これで難民キャンプから賊に身を落とす人も減るはず。……流石にシュヴァリエ側から『税回収はしなくて良いんですけど賊大量発生は勘弁して下さい』と深層装備とセットでお願いの書簡が届いて、無視するわけにもいかない。


しかしまあ、混沌の時代はいつまでも続かないものだ。やっぱりその混沌の中から纏め上げるだけの力を持った人が現れるし、破壊される価値観や文化があれば、新たに出来上がる価値観や文化もある。そういうのを眺めるのは個人的に好きだし飽きない。


この規模を世界レベルに広げた時に、纏め上げるだけの力を持った人というのはあのシュヴァリエのライトさんになるのだろう。それかスターリンにいるヒトラーさんか。マウリス教国はまあ、スターリンとシュヴァリエに挟撃される形になるんじゃないかなあ。あの教皇はそこまで凄い人物には見えなかった。


現状ではマウリス教国が国力面でトップだけど、そのトップを引きずり下ろすために2位と3位が結託するのは特段不思議な流れじゃないし、たぶんこの調子だとそうなるんじゃないかな。

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