第92話 現代人は畏怖される

「ご主人様への強い恐れ、新しい魔物への警戒心。魔物の暴走による世界の崩壊を一番心配している様子でした」

「……まあこっちが想像していた通りだし別に良いや。マトンは嘘発見機能があるんだっけ?何か嘘をついてた?」

「あの冒険者ギルドのマスターはサウイマ商会が130階のミスリルゴーレムから回収したミスリル鋼について、およそ1.8倍から2倍程度の値が付くと予想しているのにも関わらず『サウイマ商会がどういう値を付けるか分からない』と嘘を喋っていました」

「こっちもこっちで反則級だったわ……」


アメシストの読心能力やべーなと思っていたら、マトンも大概だった。こっちは単純に人間の表情とか仕草で嘘が分かるようで、さっきの冒険者ギルドのマスターが嘘を言っていたことも暴露してきたけどその程度の嘘は人間としての平常運転というか、そんなに気にならない嘘だった。


そして都合が良いことに、アメシストはマトンの心を読めないようで困惑していたけどマトンは元機械というかゴーレムだから読心能力が通じないのかな。


アメシストがこれでは完璧な奉仕が出来ないと困惑していたけど、マトンも奉仕思考が強いから奉仕される側になるのは困ると困惑し始めたのでこの新入り2人の相性はまあまあ良さげ。……アメシストもマトンも、存在意義が滅私奉公だから裏切る恐れが限りなく低そうなのは嬉しい。




しばらくはフルメンバーでダンジョンの攻略を繰り返し、150階手前で苦戦というか、蹂躙ではなく戦闘をし始め、新入り2人がパーティーメンバーに馴染んで来た頃。自分の領地では暴力で支配をした人の村が徐々に規模を大きくし、逆に残り2つの村は外から来た人との衝突で揉めていた。


……外から来て暴力支配を確立した人は、その後外から入って来る人を戦力として使えるから、勢力が増す一方、残り二つの村は外からの人を捕らえて魔物に売ったり強姦したりしていたから、勢力としては増していない。むしろ、捕らえる際の反撃で人を減らすこともあった。


これが続くと不味いと判断した残り二つの村の村長は、途中から方針を転換し、外から来た人を受け入れることにしたけど時すでに遅し。新しく入って来た人が「あれ今まで入って来た人は?」となることは必然で、今までに入って来た人は魔物の餌になったり地下牢的な場所に囚われていると知れば対立は免れない。


そして案の定、外から来た人は全員暴力支配を確立した人の下に集まるようになる。何か最近では残り二つの村から脱走をした村人や奴隷が、その暴力支配を確立した人に頭を下げて逃げ込んでいるみたいだし、そろそろ大規模な戦闘が起きそう。


「あ、リトネコ王国の軍がこっち来るってにごなから連絡」

「ええ……?目的は何だ?」


領内の治安が0どころかマイナスになっているのを上空から眺めていたらリトネコ王国軍が襲来。目的は門の前のキャンプ地で一部の人間が強盗になっているから殲滅しに来たらしい。


まあ、門の前でキャンプをしている人達は日に日に賊へ身を落としているし、アリエルの街がリトネコ王国、シュヴァリエ、リャン帝国の中間地点にあるからそんな位置に盗賊の拠点が出来るのは困る人も多い。軍が動くのは当然だな。


なお一部の先走った部隊がこちらの城門を破壊して領内にも雪崩れ込んで来たので全員スライムの餌になった模様。それがきっかけとなり、リトネコ王国軍が完全にこちらを敵視して領内への攻撃を開始。その後は語るまでもなく、突入した部隊は全滅した。


……たぶん、1000人ぐらいは犠牲になったと思う。命令されて突入した軍人さん達は少々可哀想というか哀れだ。戦闘が終わり、敵軍の幕僚達は逃げようとしていたので、スライム達が数匹やられ、怒っているニゴナがビッグスネークやブラックアナコンダに乗ったスライムガール達を追撃部隊として繰り出し、全員を捕縛。リトネコ王国軍の正規軍2000人はこれで壊滅した。


「リトネコ王国に深層装備10個要求しといて。そしたら将軍とか軍の上層部は解放するから」

「戦闘になった時点で全滅するのは分かってはいたが、そちらの被害は何人だ?」

「普通のスライムが6匹と、スネークが4匹。あとそれなりに負傷者というか負傷魔物は発生したから纏め役のインテリジェントスライムガールがキレてる」

「……早急に伝えておこう」


リトネコ王国軍との戦闘後、アリエルの街へ行って、冒険者ギルドのマスターにリトネコ王国への要求事項を伝えておく。この人色んな勢力と交渉というかやり取りをしているからこういう時に便利。スターリンのスパイ兼マウリス教国のスパイだし、国際情勢に詳しいのは有能。


……今回の戦闘で、インテリジェントスライムガールのニゴナは敵の強い部隊長を倒して食べたらしく、それでも進化とかしなかったのでちょいとレベリングを手伝うとインテリジェントスライムクイーンにまで一気に進化した。CランクからSランクへ一気に進化するのは想定外。通りで経験値貯まる速度がやたらと遅いわけだ。


インテリジェントスライムクイーンは領内にいる全てのスライム達を使ってスライムネットワークみたいなものを構築できるとか言ってたけど何を言ってるのかよく分からない。ただ1つ言えることは、領内にいる無数のスライムが全員1つの意思で動いて戦闘が出来るということだな。何というか、自分達が不在の時にこの領地にスターリンの近代式の軍が攻め込んでも、たぶん殲滅出来るだろうということは確信した。

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