前のエピソード――第90話　現代人はショゴスを怖がらない

アメシストが乗り物でダンジョン内の移動を楽させようとして来たけど、よく考えたら魔物の能力を合わせて1つの大型の乗り物を作ればダンジョン踏破がより楽になりそうな気がするな。自分という存在が致命的な弱点でもあるし、防御をあらかじめ固めておくのは有効だろう。

というわけで浮遊城の建設に使う予定だった飛行石から10個を借用して、ダンジョン移動用の車を作って行く。ベースは硬い方が良いから、ナージャの石板を使用するか。何故か鋼鉄より硬い石板だし車体に使用しても良いだろう。

別に浮く必要性はないので、飛行石は全部移動のために使用できる。後は若干の家財道具を持ち込み、アメシストが細部を補強すれば大型キャンピングカー？の完成である。アメシストが単体で車を作るよりかは頑丈だろうね。

エンジンというか、移動の方法は飛行石を使用してゆっくり進むのと、ハルが風で推したり、ボートを漕ぐような感じでダンジョンの壁をアルの蔦やマトンの手足で蹴って加速する方法がある。……車輪って、人類の中でもトップクラスに有用な発明だよな。

戦闘はスーの光線で一方的に殺したり、車の上に乗るルーが魔力の壁で圧し潰したりであっさりと終わるので当分移動はこれで良いか。すれ違う際に、まだ生きている状態だったらローがバッサリ斬ってトドメ刺すでしょ。

キューは偵察役兼結界役兼バフ役兼地上や各地との通信役なので、残ったムーが素材回収係だね。まあ一旦車から飛び降りて素材を回収しても、持ち前の速度を活かして即座に追い付けるから大丈夫でしょ。そもそも車の移動速度があまり早くない。たぶん飛行石だけだと普通の馬車ぐらいの速度。

攻撃が飛んで来て、多少石板が削られても即座にナージャが修復するから大抵は無問題だね。これでかなりダンジョン内は安全になった。360度、どこから攻撃が飛んで来ても大丈夫という状況でダンジョンに潜れるのは自分だけではなかろうか。

……ちょっと透明な窓部分をこんこんと叩いたりペタペタ触ると、アメシストが嬌声をあげるので実質胃の中に居る状態なのだろうかこれ？こいつは想定通り身体の大きさや形を自在に操れるので、今まで在庫が余っていた鎧を車体下部に置いておくことで見た目的な違和感がない状態で大量の鎧を装備していることになっている。

たぶんこの窓、スーの光線でも貫けないな。完全に透明で視界は良好だしどうなっているのかはかなり気になる。

今日は121階から130階を目指して下へ下へと攻略して行く予定だったけど、140階まではこれで行けそう。……別にナージャに乗ってる時と移動速度変わってない気もするんだけど、基本無停止になったのは大きいか。

素材は基本上の階で回収したものと金額的に大きな差はないから、低ランクの魔物が強化された状態で出て来る階は基本的に外れ。それならもう移動重視で攻略していく方が良い。

……この強化された魔物をテイムして進化させていくとどうなるのかは気になるけど121階以降はうちの魔物達の攻撃が通らないパターンすらあるし、そういう存在が裏切る可能性を考えると試したくねえ。

「ご主人様、アル様から頂いた葉と蜜を使用した紅茶です」

「…………こんなカップ家にあったか？」

車の中で椅子に座りながら飛行石を操作してると、アメシストが紅茶を出してくるけどカップにも変化出来るって相当便利な能力だよな。……このカップで飲むと間接キスどころかダイレクトキスである。まあそういうの気にしないし普通に飲むけど、カップに口を付ける度にアメシストが身体を振るわせているのは……ちょっと忠誠度や好感度が高すぎないか。

スーも身体を変化させることは出来るが、小道具を本物と同じような質感で作るのは流石に難しいらしいし。まあ光属性魔法の戦闘技能が極めて高くなったスーと、ショゴスからショゴスロードになってキューと似たような感じのサポートタイプになったアメシストでは役割が違うか。

ただ装備の数をスーより増やしやすい以上、戦闘も出来るし欠点らしい欠点はない。心読んで来るから基本こちらが嫌なことして来ないしね。こういう考えまで筒抜けなのは本当勘弁してほしいところだけど、無害ならそれで良い気もして来た。

「今日は130階まで行きましたけど出て来たボスはミスリルゴーレムでした。

……普通のミスリルよりかは硬いですけど高く買い取られます？」

「アダマントと同じ程度には硬いのにミスリル色ってところで需要はあるかもしれんが……サウイマ商会がどういう値を付けるかは俺にも分からん」

「最低1.5倍は希望出しておきます。

あ、あと新入りのアメシストの登録をしておきます。種族はショゴスロードです」

「……名前から察したが、95階で出たというショゴスの進化後か？」

今日は予定通り130階まで行って、早めにダンジョンから引き上げて冒険者ギルドのマスターと雑談しつつ、10人目の魔物登録を行う。冒険者ギルドのマスターはやっぱり裏で色々とやっているみたいだけど、基本的に自分にとっては無害な行動らしい、ということをアメシストに教えてもらう。……読心能力って、それだけでお釣りが来る強能力だよなあ。