第61話 現代人は地獄耳

ワイバーン運送を利用し、第3回目となる大量素材売却を実行したところで天使の涙のオークションも開催され、無事に800億円で落札される。どんな病気でも治せるという売り文句が実証されている以上、高額になるのは目に見えていたが想定以上に高値で売れた。


資産は合わせて1000億円ぐらいにはなりそうだし、これで湖周りの土地を買い漁ろうか。スライムの増殖速度が早くて思っていた以上に土地がない。アリエルの街のダンジョンでの繁殖は王子パーティーのせいで撤退することになったし。


「……爵位買った方が早いと思うんだが。シュヴァリエなら100億円も寄付すればエワル湖からアリエルの街までの広範囲の土地を任せられる男爵位程度は買えるぞ」

「あれ?シュヴァリエも結局今のところは貴族制なのか。

……従軍拒否が出来て、登城拒否やら政治不参加、領民や法令を無視出来るなら買っても良いんだけど」

「お前それ貴族の責務を全部放棄してるな……」


冒険者ギルドのマスターからは貴族になる提案をされたけど、100億円で貴族の爵位買えるのか。それで土地がついて来るならお得ではあるけど貴族故の責務も負わされそうなので当然却下。一々シュヴァリエの首都行かないといけなさそうだし、領民守るのとか嫌だよ。


うーん、と悩むフリだけしていると、例の目隠れ王子が登場。あ、こいつスタンバってやがった。冒険者ギルドのマスターがまた会談セッティングしてるなこれ。


とりあえず15階突破おめでとうとだけ社交辞令を言うと、向こうも100階踏破おめでとうと言って来るので無言系主人公ではない模様。なんか聞き覚えがある声なのでそれなりに有名な声優を使ってそうだなコイツ。あとよく見れば見るほどイケメンなので髪切れよと思った。


そしてこの王子というかシュヴァリエの国家元首様は、どうやら先ほどまでの自分とギルドマスターの会話を聞いていたようで、貴族としての責務とか果たさなくて良いからシュヴァリエの貴族になって欲しいと頭を下げてくる。


……純粋に自分を敵に回したくないんだろうなぁと思ったし、制約ない上に社会的地位と土地を貰えるなら貰っておくか。一応要求もあったけど、目隠れ王子の要求は、領地の開発やダンジョンから得られる利益ではない。


ただ、シュヴァリエの軍が通行するのを認めて欲しい。それだけでエワル湖からアリエルの街の手前までの森林地帯を渡すとのこと。……まあ自国領土を自軍が通れないとかおかしな状況ではあるから認めないといけないことではあるんだけど、これ要するに一方通行の地域を作りたいんだろうな。


魔物を繁殖させるとか言っている以上、他国の軍が入り込んだら駆除対象というか経験値のための餌になる。一方で、シュヴァリエ軍は通行許可があるから悠々と通れる。そんな地域がリトネコ王国とリャン帝国の国境付近にあるなら相当使い勝手は良さそうだ。


あと当然のように無税とか自分を何のために貴族にするんだ。存在するだけで抑止力とかもう核兵器扱いだ。まあただで領地貰えてそれでいて何もしなくても良いなら貰えるだけ貰うか。あとで追加の要求してきたらすぐにリトネコ王国やリャン帝国側に寝返ることも言っておこう。




トーヤが冒険者ギルドを去った後、トーヤに目隠れ王子と呼ばれているライトは冒険者ギルドのマスターにお礼を言う。


「……トーヤさんの望むことを聞き出してくれてありがとうございました」

「言った通りだっただろ?こちらからの要求が少なければ応じる奴だから味方に取り入れるのは難しくても敵にしないことは可能だって」

「本当、人心掌握が得意なんですね。マウリス教国の教官って」

「何のことかは分からんがその手の話をするならこの街を出てからで頼む。

……この街にスライムが溢れかえってるの全部あいつの支配下の支配下のスライムだからな?会話とか全部筒抜けだぞ?」


ライトからマウリス教国の人間であることを指摘されると、冒険者ギルドのマスターはすっとぼけるのと同時にこの街全体がトーヤの監視下にあることを告げる。下水道や地下空間では手狭になったため、一部スライムが路地裏や屋根裏空間に進出しているのだが、そのことを冒険者ギルドのマスターは当然把握していた。


「それは僕も把握をした上で、トーヤさんに伝えるためにこの話をしています。マウリス教国側の人間として、あなたの主目的は何ですか?」

「……この北方地域を纏める勢力が出来上がらないようにすることだ」

「……それが本当なのであれば、いつかあなたは裏切るということですか?」

「いや?俺はもうあの『アリエルのダンジョン狂い』がこの世の破壊を望まないでくれと祈るだけの存在だよ」


トーヤがあとでこの会話を確認すると確信した上で、ライトは質問を続け、冒険者ギルドのマスターは質問に回答する。


その回答を聞き、嘘ではないことを嘘発見器のようなもので確認したライトは自身の推理が正しいことを確信して冒険者ギルドを後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る