第25話 現代人は病気に弱い

60階を突破した翌日。朝から身体がだるかったのでベッドの上でゴロゴロとしていると熱が出ていることに気付く。スーの身体がやけに冷たく感じたのは、自分の身体の体温が高くなっているからだろう。


どうやら異世界に来て、風邪を引いてしまったようだ。まあ異世界だし未知のウイルスとかわんさかいるだろうな。むしろ今まで風邪を回避出来ていたのが不思議なぐらいだ。原因としては、人が多い王都に行ったからだろうか。症状としては寒気と頭痛、喉の痛みぐらいなのでまあ風邪だろう。甘く見ていて重症化したら笑えないのでしっかり療養するけど。


「うつる可能性もあるし、あまり俺の部屋に入るな。あとルーとローはゼリーを頼む」

「はーい。

……私達のご飯はどうしたらいい?」

「台所の下のアイテムバッグにグレータードラゴンの肉焼いた保存食あるからそれ食っとけ」


ルーにご飯をどうしたら良いか聞かれ、自分もこうだったなあと思いながら保存食を入れてあるバッグの場所だけ伝える。アイテムバッグの中に入れたアイテムは、劣化し辛いけど時間経過の影響を少しずつ受けるので、長期間入れっ放しだと普通に腐る。でも短期間なら保存できるのでこういう時のために貯めておくのは有用だな。


あとこういう風邪の時や重傷時のために、ルーとローにはゼリーの作り方を仕込んである。彼女達の好物でもあるけど、ゼリーは病人食としてあるだけでとてもありがたいものだ。


ルーとローに仕込んだ理由は単純に水と火を使えれば作れるようにしているからだ。この世界、スライムから寒天のような粉を作る技術はあるのでそれを再溶解し、味付けをすれば元の世界と同じようなゼリーが出来る。ルーは氷も作れるから、冷やすのは得意だ。


そしてローはルーと違ってある程度知識があるようで、きちんとした味付けをしてくれるのでこれもありがたい。今日作ってくれたのはミカンのような、柑橘系のゼリーで非常に美味しく食べやすかった。


……ゼリーを食べた後、しばらく眠っていたら額に布で包まれた氷を置かれた。眼を開けるとキューが尻尾を使って器用に氷のうを吊り下げている。こういうのって全身冷却材であるスーの役目だと思うんだけど、あの子も人間の脆弱性理解してないからなあ。


で、キューはこれ明らかにただの狐じゃないよね。あれだけ進化を重ねて、尻尾の数が増えたのにも関わらず本体部分に一切変化なかったけど、知能はたぶん魔物達の中でトップだと思う。そもそも、知能なかったら指示がきちんと理解出来ないだろうし。


なお様子を見に来たスーはキューが額を冷やしているのを見て、スーも自分の身体のあちこちを冷やすようになったけどこれ冷たすぎて逆効果な気が……あ、やばい意識飛ぶ。




「おいやめるのじゃ。これ以上は主様が死ぬのじゃ」

「え、なんで?というかキュー?」

「身体を冷やし過ぎるのも良くないのじゃ。頭以外の身体はむしろ温めた方が良いのじゃ」


トーヤが完全に眠ったことを確認したキューは変化を解き、人型となる。3本の尻尾を持つ三尾にまで進化した時点で人型にはなることが出来ていたが、ペットのままの方が戦闘時によりトーヤの近くにいることが出来ると判断したキューは、元の狐の身体を変化で維持している。


そしてそんなキューの忠告を受け、スーは身体の温度を上昇させる。スーは一瞬急激な温度上昇をしそうになったが、トーヤが「ひんやりして気持ち良い」と言っていた25℃ぐらいから「暖かくて気持ち良い」と言っていた38℃程度にまで緩やかに温度を上げ、身体を温める。


「そういうことは早く言ってよ!というか、出来ること増えたらますたーに伝えないといけないのに伝えてないのいけないんだー」

「儂が出来ることを伝えても伝えてなくても役割は変わらんからな。結局のところ、お主らが強すぎて儂に出来ることは主様のいうばふでばふ程度じゃ」

「『ぬしさま』ってますたーのこと?」

「お主わりと頭悪いのかの?」

「……射貫くよ?」

「出来んじゃろ。儂もお主も主様の所有物じゃ」


トーヤは魔物達にルールを設けており、その中の1つに「人間の所有物を壊さない」というものがある。その他、トーヤが許可を出さないと出来ない行動というのは多くあるが、それらを魔物達は自主的に守っている。


「ご飯の用意が出来たけど、スーは食べる?

……何してるの?というか誰?」

「キューじゃ。今は主様が深く眠っておるから久しぶりに変化を解いたのじゃ」

「キューちゃん、お座り」


トーヤの部屋に、ご飯の用意をしたローが入り、キューを目撃するなり剣を抜き一瞬でキューの背後を取った。バフデバフ要員であり、魔力量を多くする装備を多く持つだけのキューと、最前列で戦うために素早さの上がる靴や身体能力を向上させる指輪を多数保持するローとでは、戦闘能力が大きく違う。


何よりローは、トーヤの支配下にある他の魔物を戒める権利を保有する唯一の魔物であった。そんなローに変化を知られたキューは、正座をさせられ、根掘り葉掘り素性を聞かれることとなった。

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