第24.5話 他者から見た現代人①

トーヤからグレータードラゴンを倒したと聞いた冒険者ギルドマスターは、顔を机の上に突っ伏したまま数か月前の報告を思い返す。


「あの新人の素材の量が半端じゃないんだが、調べて貰えるか?」

「新人冒険者を追いかけるって、こちらとしては何もメリットがないので報酬は弾んで下さいよ?」


まだこの頃は9階の周回をしていたトーヤだったが、それでも持ち込む素材の多さから目を付けられていた。冒険者ギルドのマスターから依頼を受けたCランクの冒険者は、トーヤがダンジョン9階に行き、どのように戦っているのかを観察する。


「CAADHLAL」


……そしてトーヤのテイマーとしての戦い方は、至ってまともなものだった。トーヤが指示を出し、魔物達は指示通りに戦う。他のテイマーと違うところがあるとすれば、それは指示が出し終わるまでの早さと指示を聞いた魔物達の動き始めるまでの早さだ。


トーヤは早い段階で、戦闘中の口頭での指示が難しいことを把握した。小説のように「誰々は何々を!誰々は何々を!」と指示をするのでは戦闘時に指示が到底間に合わない。よって指示は英語を利用し、高速言語を一から作った。


先ほどの指示の場合、CA(カウンターアタック中心)A(前列は攻撃)D(中列は防御)H(後列は回復)LAL(ラストアタックはルーがとれ)という指示になる。指示を出す際もトーヤは出て来る敵によってパターンをあらかじめ組んでいるため、指示が出し終わるまでの速度が異様に速い。


「AD(オールディフェンス)M(前列は魔法攻撃)D(中列は防御)A(後列は攻撃)MJ(ムーはジャンプして空から攻撃)LAR(ラストアタックはローがとれ)」


最初の2文字で基本的な方針を伝え、そこから各列毎への指示へと移る。1人ずつ、細かい指示についても決めてはいるが基本的にはこの大方針を伝え終わって数秒から数十秒で戦闘自体は終わる。長時間に渡る戦闘というのは、あまりない。


指示を聞いた魔物達はすぐに指示通りに動けるよう、実戦での練習を繰り返していた。トーヤは決して頭が良い人間ではない。しかしながら、何故指示通りに動けなかったかの理由を1つずつ潰していくことは出来る。その過程で信頼関係が築き上げられ、やがて不信による行動の躊躇が無くなった時、トーヤのパーティーは異常な速度で魔物を狩るようになった。


「……朝8時にダンジョンに突入。9時頃には9階層に到着し、それから16時頃までほぼ休みなくオークを狩り、17時に冒険者ギルドに寄る。これをほぼ毎日、時間通りに繰り返していますね」

「戦闘回数は何回程度だ?」

「1時間に15体は狩っているため、1日に100体は狩っています。

……本当に、ただ作業のようにオークを狩り、魔臓だけ摘出して残りは廃棄しています」

「分かってはいたが全部廃棄しているのか。食べてすらいないんだな。というかお前の今日のオーク肉の売却量がおかしいと思ったらそれが原因かよ……」


オークは魔臓以外にも、肉が多く取れそれを持ち帰ればそれなりのお金となる。しかしながら、解体作業に必要な時間を考えた時、トーヤは1番高い魔臓だけ抜き取って後は廃棄すれば良いというコスパ最重視の方針を取った。


本来であれば、きちんと肉やその他素材を回収することで素材売却額での儲けを増やし、危険な戦闘回数自体を減らすべきところだが、戦闘をリスクととらえていないゲーム脳はより多くのオークを狩った方が儲かると結論を出した。そして魔物達も指示通り戦えばより多くのお金と、自身の成長に繋がると判断してトーヤの指示に従う。


このサイクルは、トーヤの支配下にある魔物達が強くなる度に早くなっていった。やがて場所が近い2カ所のリスポーン地点の中央で待機するのがベストと判断するようになったトーヤは、リスキルに近いことも行い探索時間すら省略を始める。


この状態で2ヵ月も経てば、冒険者ギルドで一番死者の多い9階を、鼻歌を歌いながら探索出来るようになるのは当然だった。機械のようにパターン化した毎日を繰り返すことでお金を稼ぐ。現代人の心が、一番落ち着く状態だ。


ところで、ゲームの中にはそれぞれのキャラに好感度というパラメータがあるのは珍しいことではないだろう。そしてそのゲームがRPG系だった場合、それは戦闘回数分だけ1カウントされるものもまた珍しいことではない。好感度が1万を超えた場合、親愛の証みたいな装備が手に入るケースもある。


一緒に戦うということは、それだけで人間関係を構築できるものだ。トーヤはこの世界についてダンジョン探索があるゲームをベースにした異世界と捉えているため、このタイプの好感度システムが導入されている可能性を考えている。


なお実際のところは、トーヤの指示に従っておけば強くなれるという実績が大きい。強さこそ正義である魔物社会。強くしてくれる存在を慕わない理由がなかった。


トーヤをもう一回尾行調査しようとしたところで、これから61階で狩りを続けるのであれば尾行出来る存在がいない。よってこの過去の記録から、今どういう状況になっているのかを推測するのがギルドマスターの出来ることだったが、Bランクでも上位のケルベロスを毎日500体狩っていたと聞き、ギルドマスターの思考は停止した。

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