第20話 全力疾走ウィーク・リポート1 ―残り2週間―
それからの日々はあっという間に過ぎた。
【バトルルーム】
「――ハァ、ハァ」
「――分かりますか。シャルナちゃん」
シャルナの手には
「あなたに足りないのは有翼戦闘の技術。この2週間私はそれをあなたに徹底的に叩き込みます。まずはその速度域に慣れてください」
あるものは愛を持って後輩に道を示し、
【ダンジョン同好会】
「よーし、今日は60~70層への到達が目標! 試験が近いからね。ちょっと無茶するよ。私が先導するからついてきなよ」
「この階層の雑魚は魔力消費がきついですけどね……私は命がけです……」
あるものはいつもの延長線上で頼もしさを見せ、
【60~70階層】
「人、多いね。ゲンサック」
「ああ。みな考えることは同じか」
「ぜー、はー、やっとつきましたね……」
「魔力が、魔力が尽きました真央……」
「しばらくはここで訓練するよ。強制じゃないけどね。いつでも付き合ったげる」
60~70階層。第7フロア。大樹海エリア。ドロミテ大樹林と最も類似した環境を持つ既に生徒で一杯のエリア。ここでしばらくは訓練することになる。
(シャルは会長に特訓を受けている。俺もその分、いつも以上に頑張らないとな!)
あるものは最愛のものに置いて行かれまいと奮起し、
【学園迷宮ヴィズラビリンス】
大原生林エリア。
並の生徒が最低限の安全性を担保した上で探索できるボーダーラインと言われる階層。
その階層をダンジョン部の生徒が大集団で探索している。試験に向けた実践訓練だ。上級生と下級生が協力して戦っている。集団の先頭に立って戦っているのは当然ながら殆どが3年生。だが、その中に混じって戦う1年生がいる。
光ヶ崎リュートだ。
「――レオ・グラバイト!」
突進してきた巨大な猪型モンスター【デビル・ボア】。その突進を的確に見切り、すれ違いざまに相手の速度を活かして足を撫で切る。デビル・ボアが激しく転倒しいななきを上げる。その腹部に、
「ふっ!」
光りを纏った星紡剣ステラを突き刺し、心臓を潰す。デビル・ボアが絶命する。ただ魔法の威力、そして剣術に秀でている以上に、魔物との戦い方を熟知した動き。集団で戦っているとはいえ60~70階層の魔物を相手にして尚全く危なげがない。傍にいたケビン・レイナードが感嘆の息を吐いた。
「完璧な対処法だ。胴も頭も固いからね。それが一番楽に倒せる。国一番のハンターの名家なだけはある。素晴らしいよ」
「お褒めに預かり光栄です。非力な魂成期以前からずっと魔物と戦わされてきましたからね、的確な対処をしないと勝てなかった。その訓練の厳しさから泣いてコンビニに逃げ出したこともありましたが、それも今ではいい思い出ですよ」
「以前彼が言ってたチーズバーガーが好きになった切っ掛けかしら」
「ああ。……今でもたまに思う。何で彼はそんなことまで知っていたんだろうと」
「そうね。不思議よね――ッ! フィオーレ・フランマ!」
「ウキャ! 」
アカネの頭上から奇襲をかけてきた全身を金属で覆われたメタル・バナナ・モンキーが爆炎に飲まれる。しかし、死なない。ケビンが前に出る。その手に握る巨大な大槌型のAD――堅牢尖槌ディオス・ハンマーを振り抜く。
「うおおおおおおお! オメガ・ハンマー!」
「ウキャアアアアアアアアアアアア!」
メタル・バナナ・モンキーは体を粉々に砕かれながら吹っ飛んだ。散弾のような体の破片が後続のメタル・バナナ・モンキーをも穴ぼこにする。ケビンは汗を拭う。
「怪我はないかい?」
「あ、ありがとうございます……凄い威力」
「メタル・バナナ・モンキーは抗魔力が強い。打撃混じりの攻撃でないと中々ダメージが与えられないこの階層の中でも上から数えた方が早い強敵だ。しかも素早い動きで接近戦を仕掛けてくることから後衛殺しとも言われるね。相性の問題もあるのさ」
「アカネ。あいつは口の中を狙うと言い。バナナを美味しく食べるために口内は柔らかく繊細にできている。口にウィルギーシュを突っ込んで魔法を放つんだ」
「分かったわ! よーし! 今度は一人で殺すわよ……!」
「そうだ。これは訓練だ。上手く行かなかったら改善する。それでいい。ケツは私たちが持つ。思い切りやりたまえ」
「はい! 思いっきり、やる……!」
アカネは次のメタル・バナナ・モンキーは一人で殺した。バナナを躱し、口の中にウィルギーシュの先端を突っ込み、フィオーレ・フランマ。メタル・バナナ・モンキーは固い皮の中で肉と脳をグチャグチャにされ容易く死んだ。アカネが歓声を上げる。ケビンは目を細めた。
(教えた直後にか。それに、相性の悪い遠距離魔法で傷も与えていた。あのセンス、魔力、なるほど。彼女もまた天才、か。リュート君程ではないがな。彼は異常だ。あるいは彼なら私が諦めた夢に届く未来もありうる、か。眩しいな……)
あるものは綺羅星のような輝きに切ない目つきをし、
【学園迷宮ヴィズラビリンス】
「やぁやぁケビン。こんなところで会うなんて奇遇だね」
「真央。ありがとう。助かったよ。やっぱり君は……美しいな……」
「……どうも」
ユニークモンスター【キラー・サウルス】の死体の横で真央は気味悪げに視線を逸らした。その背後には玄咲たちがいる。ダンジョン同好会とダンジョン部が合流した形だ。
「やぁ天之玄咲。いつかを思い出すな」
「まぁな。あの時はいがみ合っていた。だけど今は」
玄咲の視線の先。真央が咳払いをし、ケビンに提案した。
「ゴホン……ところでさー、ケビン。このフロア、環境としては最適だけど、ちょっとだけ敵、物足りないよね?」
「……ふむ。君も同じことを思っていたか。ということは」
「うん」
真央はウィンクをしてケビンに提案した。
「久しぶりに協力してちょっとだけ第8フロア挑戦しよ。強敵と戦うのもいい経験になるっしょ!」
第8フロア。
天界エリア
「……なるほど。これは」
「ヤバいね。うん。鳥肌立つよ。鳥だけに」
「ちょっと前のフロアと難易度違いすぎませんか? 階層の設定バランス間違えたのですか?」
「あー……いつ見ても糞ヤバイです……」
「こ、これがおじいさまから噂に聞いていた天界エリア……!」
「ワクワク……は、流石に無理かも……」
玄咲たちは雲の上にいた。それが地面。そして、その先には一つの巨大な塔。ヴィズラビリンスが最難関迷宮たる理由。真央が解説する。
「あの塔は30階層。会長すら攻略は手を焼くエリア。これまでのエリアは全て前座。ここからが真のヴィズラビリンスだよ。神塔迷宮ハイエンド。世界でも屈指の難関ダンジョンたる理由だ」
「攻略はしない。ただ入り口付近の敵と戦うだけだ。それでも十分危険だ――いくぞみんな! 私のケツについてこい!」
「ケビン、言い方……」
巨大な塔にダンジョン部とダンジョン同好会のメンバーが吸い込まれていく。そして――。
真っ白な動く彫刻品たち。その表現が一番しっくりくる。神造種。その最下位たる神造人間。それらは侵入者たる大総勢をその真っ白な目で見据え、
「――排除スル」
一斉にとびかかってきた。
「やれなくはない。が、あの質と量で魔力を保って進むのは無理だ……」
「そだねー。強敵といつでも戦えるのはいいんだけどね。ちょい強すぎるのが厄介だ」
82階まで潜った所で死者が出たので撤退した。敵の強さはそれまでと桁違いだった。でも全くやれない訳じゃない。玄咲は思った。
(あのクラスの敵がコンスタントに出るのはきつ過ぎる。流石やり込み要素だけはあるな。踏破するにはもうちょっとレベルと補正値を上げて高ランクのカードを低消費で使えるようにならないときついか……)
まだ早かった。でも、有意義な経験になったのは間違いなかった。
同刻。
「うーん……次はどう教えるか……」
明麗は一人で空を飛んでいる。その手の中には尊い犠牲が抱かれていた。
誰もが全力で試験日までの日々を過ごした。そして1週間が経ち――。
【666号室】
「……シャルは会長と特訓している。俺も頑張っている。でも、本当にこれでいいのか? いや――」
あるものは決意する。
【廊下】
「クロウ教官」
「なんだ天之」
「俺に教練をつけてください」
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