第17話 帰宅 ―CMAと天之神社―
「ふー……今日は、色々気疲れする一日だったよ」
「お疲れ玄咲。さ、今日はたっぷり話を聞かせてもらうわよ。あの天之神社に行ったんでしょ」
「ああ。今から話すよ」
ラグナロク・ネスト666号室。玄咲の自室。いつものようにベッドの隅に座ってバエルを簡易召喚。バエルとシーマに今日一日の出来事――特に天之神社に行った後の出来事を重点的に話す。バエルも楽しみにしていた。特に、
「本物の神への祈り、どうだった?」
「ああ……もう、言葉にできない。凄かったよ。もう、凄かったとしか言えないな。確かにあれは魔法がかけられていても、いや、かけられてないとおかしい」
「そう。やっぱそうなのね……私も簡易召喚して見せてくれれば良かったのに」
「それは……そうだな。今度一緒に見ようか。天之神社に試験後でもまた行ってさ」
「わーい!」
わーいと手を挙げるバエル。最近バエルは本当に無邪気な仕草を見せるようになった。まるで出会った当初と別人。あるいはこれがバエルの素なのかもしれない。外見同様、あどけなさと美しさの同居した、本当に絶世の。
たゆん。
絶世の……。
「……」
改めて見ると大きいなと玄咲は思った。そういうシーンがなかったので最近意識する機会がなかったが、意識すると中々の暴力だった。よく毎日2人きりで話しているものだった。改めて思った。視点を向けてはいけないと。
(それが双方にとって一番いいはずだ。うん。バエルへの態度に違和感が生まれてしまうからな……)
「む? ……シーマちゃん? いいのよ。そう、あなたはシーマちゃん。シーマちゃん。シーマちゃん。あなたはシーマちゃんなのです。私は……」
「……」
カッ!
バエルは謎の寒い一人芝居の末にシーマに交代した。
「お待たせ玄咲! いつもいつでもあなたの最高の友達! 過激で素敵な新世紀を切り開く未来のRPG! CMAの精霊シーマ! ……だよー……」
「……」
あ、最後の方で変わったんだな。玄咲はそう思った。腕を交差させながらのバキュンポーズとウィンク。そのポーズでシーマは固まっている。戸惑いがスパイスになって凄まじく可愛かった。玄咲が小さく「ハァハァ」言い出した頃、シーマがパンと手を叩いて空気を仕切り直した。
「ひ、久しぶりにCMAのCMキャッチコピー言ってみたよ! どうだった!?」
「あ、ああ。久しぶりに聞いた。懐かしかったよ。1999年らしいキャッチコピーだよな」
「うん! そうだね! ……天之神社の話再開しよっか!」
「うん!」
2人は天之神社の話を再開した。その内話は王魔写真館の話題に。しみじみと思い出しながら玄咲は語る。
「王魔写真館には本当圧倒されたよ。……今まで魔物に抱いていたイメージがぶっ飛んでしまったな。本当に試験前に見れてよかったよ……」
「……」
シーマはふいに黙って、それから切り出した。
「あのね、玄咲。今度、王魔写真館に連れてって」
「え? あ、ああ。その頼み自体はバエルに神への祈りを見せる時に一緒に見せれるから聞けるけど……見たいのか?」
「うん。見たい」
「……グロいぞ」
「大丈夫。私グロイのなら見慣れてる」
「え? あ、そっか。ポケットボーイ大体いつも持ち歩いてたからな。でも……想像の100倍グロいぞ」
「いいの。それでも見たいの」
なんとなくシーマにはあの光景を見せたくなくて留める。でも、シーマは頑固だ。中々譲らない。だから玄咲はいくらかの押し問答の末シーマに尋ねた。
「……なぜ、そこまで」
「大好きなCMAの世界の悲劇だよ? 知らない訳にはいかないよ。知った上で、色々なこと考えたいの」
「――」
玄咲は。
自分が随分シーマのことを誤解していたなと反省した。
シーマの優しさはただの性質じゃない。
根底に強さがある。
玄咲と一緒に地獄を駆け抜けたのだ。ただ優しいだけじゃないと分かっていた筈なのに。
随分甘く見ていた。それは失礼だったなと玄咲は少し反省した。だから笑って謝った。ここで自己嫌悪に陥る程玄咲も今は自分を嫌っていない。
「ごめん。シーマのことをちょっと甘く見てたよ。そうだよな。ちゃんと見て、考えないといけないよな……」
「うん。そうしたい」
「……分かった。今度そうしようか」
「うん!」
シーマは笑顔で頷いた。その後はまたシーマと天之神社の話を再開した。衝撃を受けたこと、そして楽しかったことまで全部あますところなく話した。そして天之神社について一通り語り終えた後、シーマが人差し指を頬に当てて首を傾げた(玄咲がその仕草に激しく萌えたことは言うまでもない)
「ん? あの精霊の話はなかったの?」
あの精霊。
天之神社の守護者――天照。
そう言えば全くその話がなかった。
「話す予定がなかったんじゃないか? あるいはまだ語られるだけの信頼を得ていなかったのか」
「忘れてたんじゃないの?」
「ははは。そんな訳――」
翌日。
「あ、忘れてました!」
忘れていただけだった。翌日、明麗に学校でその精霊の話をすると口に手を当て「うっかりしていた!」と言わんばかりの表情でそう言った(玄咲がその仕草に激しく萌えたことは言うまでもない)。
「ま、まぁ切り札は秘密ということで一つ! あまり重要な話ではないし、今は見直す時間もないし、このまま流しちゃいましょう! そもそも祭壇に飾ってあるカードを見に行ってちょっとだけ名前に触れての予定だったので、私自身も王魔写真館のインパクトにやられてすっかり予定を忘れちゃいました! あはは……」
うっかりミスだったらしい。玄咲が萌えたことは(以下略)。明麗は両手をパンと打ち鳴らし、話をこう纏めた。
「今はそういう存在があるということだけ覚えておいてください! これから私はシャルナちゃんを特訓漬けにしなきゃいけないので、それでは」
「う、うん。玄咲、いってくるね」
「あ、ああ。……シャル」
「なに?」
「……その、生きて帰ってくるんだぞ」
「? うん。そのつもりだけど。変な玄咲」
「さ! 行きましょうかシャルナちゃん!」
「は、はい!」
シャルナを連れて明麗が去る。決意を胸に勇ましく歩くシャルナの背を玄咲は遠く見つめた。
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