第15話 天之神社8 ―勇者AD―
「お、おお……! おおおおおおおおおおおおおお!」
玄咲の手に今虹色に輝く宝剣が握られている。
震える手に伝説が握られている。
勇者AD。彩虹剣セイント・ソード。
勇者カーン・スパークが最後に使っていた最強のADだ。
原作にもなかったイベントに玄咲のテンションは上がりっぱなしだ。
「こ、これが本物のセイント・ソード。凄い存在感だ……!」
「う、うん。ディアボロス・ブレイカーには劣るけどね……」
「ま、まぁ、うん……それにしてもこれ、本物だったんですね」
「いえ、展示してるのは模造品でです。それは隠し倉庫に保管していた本物のセイント・ソードです」
「な、なるほど、道理でさっきより迫力が増して見えたはずだ。しかし、いいんですか? そんな貴重なものを持ち出して?」
「私には……マギサ法がある」
(あ、良くないけどゴリ押すつもりなんだ)
「さ、早く起動を。虹色の魔力の持ち主なら起動できるはずですっ! 取り合えずこれを」
明麗が1枚のカードを玄咲に渡す。
ランク1
光属性
ライト・フラッシュ
「ライト・フラッシュ!」
セイント・ソードにカードをインサートした玄咲が叫ぶ。
カッ!
「うおっ、まぶしっ!」
間近で光を浴びた玄咲は目を瞑り顔を背けた。けたたましい程の光量。シュヴァルツ・ブリンガーより間違いなく格上。伝説のADの出力の一端が垣間見えた。
(流石勇者が使ったADなだけはある。凄い出力だ)
「……本当に起動、できた。驚きました! 凄い! 凄いです天之くん!」
明麗がピョンピョン飛び跳ねて喜ぶ。玄咲は悪くない気分になった。
「ふ、ふふ。いや、それ程でも、ふ、ふふ……」
「では次は、本番です!」
シャルナが言葉を挟む間もなく明麗は玄咲にまた一枚のカードを渡した。
ランク7 イージス・ソード
「こ、これは……?」
「私のメインカードの1枚です。性能バランスが丁度いいんですよ。天之くんのレベル的にも試運転には丁度いいと思いまして。さぁ、早く起動を」
「は、はい」
ゲームのストーリーでも明麗が魔物と戦う際好んで使用していたカード。つまり、縛りプレイをする時でもなければ基本明麗をメインパーティに入れていた玄咲にとってもとても思い出深いカードだ。その実物を天之明麗その人から手渡し。玄咲は戦々恐々カードを受け取り、震える手で勇者ADにカードをインサートした。
「天に、天に向けて詠唱してくださいよ。念のため」
「わ、分かってます。ゴクリ……それでは、行きます!」
玄咲は勇者AD――彩光剣セイント・ソードを頭上に突き出し、声高く叫んだ。
「イージス・ソード!」
【エタ村】
「……ん? なんだべ、ありゃ?」
プレイアズ王国の田舎に住む農家の
小さな太陽のような虹色の光が山の中腹に灯っている。孝子の中で疑問はすぐに氷解した。
「あんれはぁ……魔法の光だっぺ。きっと明麗さまの魔法だっぺ」
「ああ。そうかぁ。明麗さまは天才だべなぁ。あれくらいの魔法使うっぺなぁ。いやぁ、凄いっぺ」
「耕士もあれくらいの魔符士になればいいだがなぁ」
「ははは。耕士はそこまでの器じゃないっぺ。ラグナロク学園に入学できただけでももうけもんだっぺ。学園の端っこでも無事に生きて卒業してくれればそれ以上は望まないっぺ。……でも、立派な魔符士になるといいだべなぁ」
「そうだがなぁ……そん時はたくさん赤飯炊くだ」
「んだんだ。そん時のために農業再開すっぺ」
「おうだ。泣いて戻ってきた時耕士に継がせる畑も用意しとかなあかんだぎゃな」
畑夫妻は虹色の光のことはすぐに忘れて農業を再開した。大空の光とたくさんの愛情を受けて育った稲穂が虹色の光にも負けない眩しさでどこまでも光り輝いている。
「お、おおおおおおおお……!」
宝剣が纏う眩い光のオーラが5メートル程の高さまで伸びあがり奔流し続ける。間違いなく過去最高のシングルマジック。勇者の伝説は真実だった。勇者ADはオーパーツだった。感動が玄咲の心を揺らしていた。
「す、凄い……!」
シャルナの瞳も魔法の光を反射して虹色に輝いている。虹色の光の奔流はいつまでも止まらない。
中々、途切れない。
「――もういいですよ。天之くん。疲れたでしょう」
「え? あ、そうですね……どうやって止めるんですか?」
「え? なんか、こう魔力の流れを締める感じで、こう――」
「……」
「……え? できないんですか?」
「ッ! できるッ!」
「ええ……」
「ふ、ふんッッ!!!!!」
「……」
「ふんッ!!!!!!!!」
しばらくふんばったらなんか止まった。生き恥と引き換えに玄咲の魔力制御の能力が少し上がった。
「――凄い、ですね。セイント・ソード。伝承に違わぬ化け物ADだ。シュヴァルツ・ブリンガーより明らかに格上だ……」
「――そうですね。流石に他の古代ADとは一回り格が違うようです。――なるほど。これが、勇者AD…」
明麗は感慨深げに玄咲の手元を見つめる。光を失った剣身がその瞳に移る。
呟く。
「……なるほど、これが――」
遠い瞳で、その剣身を見つめる――。
その後は一騒動あった。当然のことながら人が集まってきて大騒ぎになったのだ。明麗は両親に詰められていた。玄咲もシャルナも質問責めにあった。しかし、明麗が予め用意してきたような完璧な答辞を行い、騒ぎは一先ず落ち着いた。人だかりが去った後、明麗は額の汗を拭い、息を吐いた。
「ふー、凛子にこういった場合の説を用意させた甲斐がありましたね」
「え? 自分で、考えたんじゃ」
「ふふふ。出来ないことは人に任せる。これが本当の器量ですっ!」
「あ、はい」
(信頼してるな……)
「それより!」
明麗が2人を振り返り、胸を張って言った。
「これにて一見落着です! ちょっと疲れたのでレストランでご飯でも食べて休憩にしましょうか!」
天之神社での楽しい時間はあと
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