エピローグ2 クララと登校
「にしても、今日はいい天気だなぁ……」
玄咲とシャルナは白い輝きに照らされながら賑やかな通学路を歩く。登校感を出すためあえて校舎と寮の距離を置き、様々な建物を道中に置き、ちょっとした町並みのような風景。シャルナがその風景を眩し気に見ながら玄咲に話しかける。
「この学園、本当、いい場所」
「ああ。そうだな」
「この学校に玄咲と一緒に通えて良かった」
「俺もだよ」
「でもいつかは卒業するんだよね」
退学する可能性など考えない。
「ああ」
「……少し寂しい」
「……そうだな」
「だからさ。奇跡のような今この瞬間を、なるべく楽しもうね。今の2人が一緒にいられるこの時間の全てを心に刻み付けようね」
「ああ。この奇跡のような今を全力で生きよう」
「うん」
全てがきらめいて見える奇跡のような世界。時々血生臭い現実が顔を覗かせるが、それでも今がきらめいて見えることに変わりはない。イベントに関する雑談多めの生徒たちの賑わいさえも愛しい光景の一部として楽しみながら2人で登校していると、ふいに後ろから声をかけられた。
「おはよ、玄咲くん。シャルナちゃん」
宝石のように綺麗な、でも太陽の熱量を秘めた声。2人は即座に振り向いた。
サファイア色の髪と心がいつも綺麗なクララ・サファリアがそこにいた。声が、弾む。
「! クララ先生!」
「クララ、先生! おはようございます!」
「うん。おはよう」
クララがにこっと笑う。見惚れる二人にクララが言う。
「ちょっとお話ししながら登校しない?」
返答は聞くまでもなく。
「ふふ。2人は本当に仲がいいのね」
「はい! 2人で1つです!」
「は、はい。仲がいいのは間違いないです……」
クララとシャルナに囲まれて、まさしく楽園で天使に囲まれる心地で玄咲は通学路を歩いた。そして校門を抜け、入学時に噴水が上がっていた広場にさしかかったところでクララが唇に指をあてがって「ふふ」と笑った。
「懐かしいわね。ここ、玄咲くんを魔法で拘束しながら歩いたっけ」
「っ!? い、いや、それは……」
「? 玄咲、何したの?」
「うっ!!!!? いや、それは」
「あっ……」
痛撃。冷や汗をだらだら流す玄咲とうっかり失言に気付いたクララにシャルナが「あっ、思い出した」といった表情で、
「そういえば、アカネちゃんにおっぱい、揉んだとか言われてたね」
クリティカル。シャルナの得意技が炸裂した。玄咲に。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!? い、いや。はい、そうです……」
「……ごめんね。玄咲くん」
「――くすっ」
シャルナが唇に指を当てて愉快そうに笑って、
「そんなの、初日から知ってるよ。今更だよ」
「え? あ、そうだったな……」
「わざとじゃなかったんでしょ? 気にしなくていいよ。玄咲のこと、ちゃんと分かってるから」
「……うん。ありがとう。シャル」
「……あなた達、本当、仲いいわねぇ」
クララが呆れとも感嘆ともつかぬ息を吐く。そして、見守るような優しい笑みを浮かべて言った。
「……玄咲くん。あの時より随分と明るくなったわね」
「……」
玄咲はしっかりと頷いた。
「……そう、ですね。シャルのお陰です」
「シャルナちゃんも明るくなった。入学当初はどこか陰鬱な影をずっと背負ってたのに、今はさっぱり。本当、別人みたいに明るくなった。というより、元に戻ったって、感じなのかな?」
「はい! そうです! 元々お母さんを困らせるくらい、元気な子でした! 玄咲のお陰で、昔みたいに、明るくなれました! 全部、玄咲のお陰です!」
「……ぐす。ごめんなさい。なんか涙が。本当に、2人はいい関係なのね」
「はい! 2人で1つです!」
「……」
玄咲は照れて何も言えない。ただシャルナの輝きに圧倒されている。クララは微笑まし気な目で二人を見ながら言葉を続ける。
「それでさ、シャルナちゃんは、驚くほど強くなったわね。イベント、凄かったわ。教員の間でも話題だったわ」
「……はい。それも玄咲のお陰です。玄咲がずっと、私を鍛えてくれました。つきっきりで、本当に、本当に……」
シャルナの眼からぽろぽろと涙が溢れる。泣きながら、
「私は、玄咲が大好きです」
告白する。
「……そっか。本当、いい関係ね。あなた達は」
クララは笑った。そして、不意打ちにむせ込む玄咲とその背を撫でるシャルナに少し迷ってから告げた。
「その、カミナ君とも、色々あったわね……」
「……」
色々あった。一先ずの決着を得た。だが、まだ感情の整理は完全についた訳ではない。玄咲はクララに尋ねてみる。
「カミナは今、どうしてますか」
「学園長直々に学園牢に収監したわ。何か考えがあるみたい。きっとろくでもない考えだろうけどね。……カミナ君自体はね、何か、憑き物が落ちた感じ。前より落ち着いてるわ。復讐鬼って感じではもうないわね。でも、まだ深い闇を抱えてる……洗脳、されてる」
「……そうですか」
「……彼のやったことは同情に値しない非道の行いだわ。それでもさ、可哀そうな子ね。色々と」
「……はい」
ありふれた言い方だがカミナは元々いい奴だった。学園編の描写でもその片鱗が度々伺えた。エルロード聖教さえなければ。宗教2世が裏テーマの複雑な事情を抱えたキャラだった。最期はサンダージョーを失い牢屋の中で自殺する。
(この世界ではどうなるんだろう……救いとかないのかな)
玄咲は少しだけカミナに同情した。あんなことをしておいてなんだが、最後、少しだけカミナと分かり合えた気がしたのだ。
あんなことをしておいてなんだが。
「……よくさ、乗り越えたわね。上級生相手に、禁止カード筆頭の悪夢の蜃気楼に、他の1年生では無理だった。あなたたちでなければ絶対乗り越えられなかったわ」
「……そう、でしょうね。他の1年生ならそもそもこんな目にも合わなかったと思いますが」
「……ごめん」
「あ、いや、シャルを責めてる訳じゃ……」
玄咲のネガティブが炸裂した。シャルナが自責を感じて俯く。玄咲が慌てる。その2人の頭をクララが優しく撫でる。驚き、しかし感じ入る二人に、クララが優しく告げる。
「……きっとこれからも色々あると思う。先には他国訪問みたいなもっと危険なイベントや行事も待ってるしね。でも、それでもね」
クララが2人に笑顔を向ける。それはまるで約束された祝福のブーケのように二人には見えた。
「あなたたちが2人でいればきっと大丈夫。私はそう思うわ」
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