エピローグ3 イベント結果発表
G組教室。
「ん? なんだ……」
「行ってみよ」
教室後方に人が集まっている。近づくと、すぐに道を開けてくれた。人だかりの正体は一枚の張り紙だった。
クラス対抗ストラテジーウォー結果発表
優勝G組
個人MVP 天之玄咲
各クラス獲得ポイント
1位 G組 1375P
2位 C組 270P
3位 E組 256P
4位 A組 141P
5位 B組 1P
7位 D組 0P
7位 F組 0P
ポイント獲得上位11名
1位 天之玄咲 727P
2位 シャルナ・エルフィン 320P
3位 光ヶ崎リュート 152P
4位 火撥狂夜 151P
5位 コスモ・ミストレイン 123P
6位 死水綺麗々 91P
7位 神楽坂アカネ 81P
8位 神鐘マルタ 51P
9位 一ノ瀬大山 31P
10位 水名月雫 26P
11位 炎条司 21P
成績上位者11名
1位 天之玄咲 100点
2位 シャルナ・エルフィン 99点
3位 光ヶ崎リュート 98点
4位 火撥狂夜 97点
5位 コスモ・ミストレイン 96点
6位 死水綺麗々 95点
7位 アルル・プレイアズ 94点
8位 畑耕士 93点
9位 炎条司 92点
9位 神楽坂アカネ 92点
10位 クゥ・クロルウィン 91点
11位 土竜さとし 90点
「なるほど。結果発表か。人だかりが出来るはずだ。にしても、中々尖った結果だな」
「う、うん。クラス得点の差が凄いね……」
1枚の紙にぎっしり情報が詰め込まれていた。誰もが気になっていたクラス対抗ストラテジーウォーの結果発表だった。それを肴に生徒たちが感想を言い合っている。
「いや、ポイント差……」
「えげつねぇな……」
「でも、ポイントと成績が直結してる訳じゃなさそうだな」
「1ポイントのアルルが好成績だ。忖度か?」
「いや、ラグナロク学園は忖度はしねぇ。純粋な評価だろう」
「やった! 私ポイント10位だ!」
「防御や回復が得意な奴が不利になるからポイントで成績はつけないっていってただろう。まぁ、全く無意味ではなさそうが」
「まぁな。流石に一人であれだけ稼がれたらな……」
「成績は……ああ、そうか。100から90位は基本一人ずつしかいなかったな」
「で、個人MVPは当然あいつと。そりゃいくらポイントが全てではないと言ってもあの数値はな……」
G組が優勝ということもあり生徒たちの表情は弾み気味だ。その楽し気な喧騒に玄咲もちょっと浸りながら己のポイントに注目する。
天之玄咲。727P
(……ゲームの仕様上の最高得点の500ポイントを超えてしまった。コスモちゃんのポイントを自分の手柄とするのは少し心苦しいものがあるが、それを抜いても500ポイント超え。我ながら凄まじいポイントだな……にしても)
その思考の続きはシャルナが代弁してくれる。
「凄いね玄咲。1、2フィニッシュだ」
「ああ。もうシャルの強さを認めない奴はこの学年にはいないだろう。学園長も今頃驚いてるんじゃないかな」
「うん。玄咲のお陰だよ。ありがとね」
学園長室。
「……やるじゃないか」
マギサは机の上のイベント結果表を見て愉快気に笑った。それから、ため息をつく。
「にしても、私の眼は節穴だったねぇ……」
朝のHR。
「突然だが一ノ瀬大山が自主退学を申し出た。イベント中に心に重篤なトラウマを刻まれたらしい。仔細は省くが――」
「やったぜ!」
「天之に殺されたらしいぜ!」
「……」
配慮を一瞬で無に帰されたクロウは咳払いをする。玄咲はある程度そうなればいいと思ってトラウマを刻み付けたので特に何も思わなかった。
「暗めの報告は先に済ませておいて――まずはクラス対抗ストラテジーウォー優勝おめでとう。俺もボーナスがもらえたよ。生徒の成績は教師と無縁じゃないんだ」
(無駄金かな……)
玄咲は反射的に思ってしまった。多分、他の生徒も。そんな目つきをしている。シャルナまでも。クロウは怯むことなく教団の机から数束に分かれたカードの束を取り出して、一束ずつ最前列の生徒に配り始めた。促されるままに最前列の生徒たちが後ろにカードを配る。玄咲、そして最後にシャルナの下にカードが届いた。シャルナがカードを凝視して呟く。
「……カップラーメン約30個分だ」
(あ、真っ先に出る感想がそれなんだ……)
【食事カード。残額5000マニー】
学内施設で使える5000マニー分の食事券だ。それをクラスの全生徒分。結構な額になるはずだった。
「……流石に俺も生徒に稼がせてもらったも同然の金で賭け事にいったりはしない。どうせだから生徒に還元しようと思った。大したものじゃないがな、だからこそいい。生徒がカード、ADの面で直接補助するのは禁止されてるからな」
(……ごめんなさい。教官。絶対賭け事に使うって思ってました)
玄咲は心の中で謝った。シャルナも申し訳なさそうな表情をしている。青髪の女生徒だけが信じていた、そんな表情をしていた。クロウは少しだけ傷ついたがいつものことなのですぐに気を取り直した。
「それではクラス給付ポイントの発表に移る。サクサク行こう。こうなった」
クロウが入室時から持っていたロール紙を広げて黒板に張り付けた。。
1位 70万ポイント
2位 60万ポイント
3~7位 50万ポイント
(ん? ゲームより給付ポイントが多い。そして、順位による差が緩やかだ。3~7位が横這いだ。1位50万ポイント。2位40万ポイントで、3位以下は5万ポイントずつ下降していく仕様だったんだが)
「先生―、G組が断トツなんだからもっとポイント給付されてもいいんじゃないですかー」
玄咲の疑問と、生徒の一人が言葉にしたおそらくクラスメイト全員が抱いていたであろう疑問に、クロウが纏めて答える。
「今年の1年生は伸びが凄い。これからはカードの購入にもADの強化にもポイントがたくさんいる。だから予定よりも多量のポイントを配布することとなった。また、このイベントはG組が突出して強すぎた。少しバランスが悪かった。その反省と、前述の理由により、上位入賞のメリットが最低限となった。すまん。許してくれ。この通りだ」
クロウが頭を下げる。当然の反発を予想して。だが、G組の生徒たちは、意外と素直に決定を受け入れた。
「まぁ、天之や狂夜がいたし、あの天之の女も信じられないくらい強かったし、個人戦力でもぎ取った感はあるよな」
「私一人も倒せずやられちゃったわ。流石に文句言う資格はないわね……」
「俺、コスモちゃんに一撃で殺された。可愛かった」
「俺も宇宙が見えたぜ。コスモちゃん。いいよな」
「分不相応な権利、ですか……」
貢献はした。だが1位は自分の手柄ではない。個人ポイント票の数字の手助けもあってか、その意識が拭い難くあるようで、大きな文句は上がらなかった。小さな文句は上がったがクロウは努めて無視した。
「だが個人成績に関してはしっかりと各生徒の能力に応じて差をつける。個人として強くなればなるほどに恩恵を受ける。その前提こそがラグナロク学園の流儀だからな。それでは成績発表とポイント給付に移る。だがその前に――天之玄咲。教壇の前へ」
「はい」
クロウが溜めを作る。それから玄咲の名を呼んだ。玄咲は慌てず立ち上がって教壇の前へ。
「おめでとう。個人MVPの証、全生徒唯一の100点だ――頑張ったな。天之」
教室が沸騰する。100点獲得。その特別性はクラス対抗ストラテジーウォーの過去開催情報から殆どの生徒が共有している。玄咲も勿論知っている。この後何があるかも。だが、そんなもの関係なしに、個人優勝に等しいその称号を授かったことに対するシンプルな歓喜から湧き上がる熱い思いを噛み締めながらクロウに礼を言った。
「はい――ありがとう、ございます」
「ああ。よく頑張ったな。そして――」
クロウが教壇の引き出しから1枚のカードを取り出し玄咲に渡す。
「そして、これが個人MVPの景品だ」
「こ、これは――!」
「ああ」
玄咲は手の中のカードを見て震える。クロウは頷いて答えた。
「ランク7のカードの引換券だ」
ざわ……。
教室がどよめく。玄咲もまた驚いていた。CMAとは違う展開だったからだ。
(ゲームではランク6のカードの引換券だったのがランク7――50万から100万ポイントの価値のあるカードの引換券。これも生徒の平均レベルが上がった影響か! や、やったぞ……!)
「確かランク7のカードって50万~100万ポイントだったよな?」
「あいつ、実質他の生徒より100万ポイント近く大量のポイントを貰えたことになるのか!」
「いいなぁ……羨ましいなぁ……」
教室中がざわつく。クロウは生徒たちがある程度落ち着くのを待ってから、語り始める。
「例年はランク6のカードだが先も言ったように、今年の1年生は伸びが凄い。平均レベルが例年よりも1ランクほど高い。だから景品もそれに合わせて1ランク上げた。以上だ。この学園ではイベントでも試験でも1位という数値には特別な意味がある。今度も1位――MVPを取った生徒には特別な恩恵を用意するつもりだ。そのつもりで頑張るように」
クロウの言葉で発奮する生徒とそうでない生徒がいる。当然のことだった。ラグナロク学園といえど生徒の差は当然ある。それを踏まえた上で、1位を取れずとも通う価値のある学園設計になっている。
だからといって上を目指さないものには容赦がないのはこの学園だが。
「……ありがとうございます」
玄咲は手元のカードを見つめて礼を言った。
「うむ。……えっと、より一層の成長を期待している」
「はい!」
クロウは上手い締めの言葉を思いつかなかったのか最後は少し適当に締めた。それで個人MVPの話は終わった。席に戻るとシャルナが祝福の言葉を投げかけてくれた。
「おめでとう」
「ありがとう、シャル」
「凄いね。最大100万ポイント――1000万マニーだ」
「ああ。俺は他の生徒よりたくさんのカードを用意しないといけないからありがたい。持ち込みは限度があるしな。学園長の気まぐれで覆るとはいえ」
「そだね。玄咲、かなり使い分けるもんね。大変だ」
「闇属性と炎属性になるべく絞っていこうとは思っているが、他属性の有用カードはなるべく確保しておきたいからな。本当ポイントがいくらあっても足りないよ。また稼がないとな」
シャルナと玄咲は短い会話を交わし合う。クロウが話し始めると2人はクロウに向き直った。
「では続いて個人成績の開示と同時にポイント給付に移る。100点満点換算で、成績に万を付けた数値がそのまま獲得ポイントとなる。100点なら100万ポイントだな。それじゃ、SDで同時に行うぞ」
クロウがSDを弄る。全員のSDに一斉に通知があった。玄咲はちょっとだけドキドキしながら己のSDに現れたメールアイコンをタップした。
天之玄咲 100点
「う、うん。分かっていても、改めてみると嬉しいな」
「そうだね。ねぇねぇ、見てみて」
シャルナが玄咲に己のSDを見せつける。
シャルナ・エルフィン 99点
分かっていても、嬉しい。
「一杯、稼いだよ。ラグマで好きなもの、奢ってあげるね」
「シャルが、99点、か……」
――玄咲の脳内でイベント前の短くも長過ぎた1週間の思い出が走馬灯のように駆け巡った。その全てがシャルナを育てた。いいことも、悪いことも、シャルナは全て糧にした。そして閃光の速度で強くなった。玄咲が頼もしいと思えるほどに、隣並んで戦えるほどに、学年2番目の得点を叩きだすほどに。
シャルナはもう、玄咲がいなくとも戦える、立派な魔符士へと成長していた。
「――あ」
玄咲の瞳から涙が一粒零れ落ちた。また一粒、一粒と、溢れて止まらない。シャルナがわたわたする。
「ど、どうしたの! 玄咲?」
「いや、感極まって、涙が勝手に……シャル、強くなったな。本当に、強くなれて、よかったな……」
「――」
シャルナの瞳からも涙が零れ落ちる。どうやら今更実感が湧いてきたらしい。玄咲の感情に共振してもいるのだろう。ぽろぽろぽろぽろ。次から次に涙が零れ落ちる。止めようにも止められない涙が。2人してうろたえながら涙をこぼし続ける。その間にも、生徒たちは生徒たちで雑談を交わし続ける。
「俺、45点だった。でも、納得感はあるよ。しっかり相応の評価をされたって感じ」
「俺、15点だった……なんで、なんで……コスモちゃんに見惚れてたら1発で殺されただけなのに……」
「6,69点……まぁ、マシな方ですかね……でも、69(シックスナイン)……ゴクリ」
「85点! これって高得点よね! ほぼほぼ最後まで残ったし、たくさん貢献したし、強そうな敵も倒したし、ね、ねぇ、センセ。少しくらい、褒めてくれても……」
いつの間にかHRの空気は弛緩し、生徒たちは自由に雑談を始めていた。クロウも最初は止めようとしていたが、少しくらいいいか、今はそんな表情であえて止めはしない。青髪の少女の髪を撫でながら、頬を緩めて、生徒たちの好きにせている。一気に騒々しくなった教室の中で、ようやく泣き止んだ玄咲にキララが話しかけてくる。
「みてみて! 私95点! 凄いでしょ!」
「ああ、凄いよ。やっぱりキララはすごいな」
「私99点」
「あ、うん」
「ちゃんと指揮取って相手のリーダーを実質仕留めたのが評価されたみたい。サブリーダーも倒したしね。ポイントもそれなり。でも、ポイント一辺倒の評価じゃないみたい。でないとずっと防御に専念してたさとしとかどうなるのって話だし」
「まぁ、そうだな。そういやさとしと狂夜くんも結構高得点――」
「はぁーっはっはっは!」
――狂夜の笑い声。玄咲はそれだけで全てを察した。狂夜が愉快そうにさとしの肩を抱く。
「自信満々に点数を見せてきたと思えば90点。97点の俺の格下じゃないか! その程度の点数でよく威張れたものだな! そもそも既に発表されていただろうが! ッ目に入らなかったのか! はははは!」
「……くっ!」
「ねぇ、玄咲。そこまで、大きな差じゃないよね?」
「1点でも上回っていることが重要なんだろう」
「そっか」
どうやらさとしが狂夜に絡みに行って点数差でカウンターを食らった形らしい。1点でも上回っていたら煽る側に回っているのはさとしだっただろう。なので玄咲は同情する気は起きなかった。ゲームと同じで犬猿の仲だなとだけ思った。
「よくも他クラスにまでMサイズホモドッグなどという口に出すのも恥ずかしい幼稚なセンスのあだ名を広め回ってくれたなぁ。お陰で俺のキャラは入学時から狂いっぱなしだ。他にも、マゾだの、ホモだの、謂れのないデマをペラペラと――」
溜まっていた鬱憤をここぞとばかりに晴らす狂夜。普段はクールに無視していたのに内心相当気にしていたことを自ら暴露していく。せっかくイベントで上がった株が再び下がる。見目はいいのに何か残念な男。その印象がもはや拭い難く定着する。ニヤニヤとさとしを呷りながら自分の評判を下げていく狂夜にさとしがボソッと、
「……ホモなのは本当だろうが」
ピシリ。
空気が凍る。さとしと狂夜の間に決定的な亀裂が入る。玄咲はシャルナとキララに挟まれながら呟く。
「別に彼はホモじゃないんだがなぁ。何でそんな勘違いが蔓延っているんだろう。。男なんて好きになっても何も楽しくないのに」
「……」
「……」
急にシャルナとキララが黙る。玄咲は不思議がった。
「ん? どうしたんだ。シャル。キララも」
「……んーん。不思議だね。私にも、理由、分かんない」
「……そーだねー。なんでだろーねー」
「ああ。分からない――あ、始まった」
案の定さとしと狂夜が喧嘩を始める。クロウの対応も慣れたもので、喧嘩が広がる前に二人の頭に拳骨を落とし無理やり黙らせる。そしてため息をついて、まだ納得しきっていない二人にため息をついて言った。
「今日はHRだけで授業はなし。他に報告することは一ノ瀬大山が自主退学したことくらいか。まぁどうでもいいな。せっかくだ。得たポイントを使って賭けバトルでもしてきたらどうだ。頭がすっきりするだろう」
「! よし! 強くなった俺を見せてやるぜ!」
「ふん。上等だ。格の違いを改めて思い知らせてやる」
「おい! カードバトルだ! 見に行くぞ!」
「そうね! カードバトルだもんね!」
「セ、センセ。また0号館、解放してくれるよね?」
「……そうだな。イベント後はカードバトルが活性化する。他にも戦いたい生徒もいるだろうし、そいつらも戦わせて見学させるか。イベント前後の変化。それを実感するいい機会になるだろう。よし。予定変更だ。これからカードバトルの実技授業とする。0号館を開放する」
「やった! センセ、大好むぎゅ」
抱き着きにきた青髪の女生徒の頭を手で遠ざけながらクロウが教室を出る。生徒たちがその後に続く。G組全員でいつかのように0号館へと移動する。玄咲とシャルナはその最後尾を歩く。シャルナがしみじみといった。
「ちょっと荒っぽいけど、平和って、感じするね」
「ああ、平和だ。やっと戻ってきたって感じがする」
「うん。――本当、疲れた。大変な一週間だった。でもさ」
シャルナがSDに表示された99点という数字――1週間前のシャルナなら絶対取れなかった点数。成長の象徴を見せながら、嬉しそうに笑った。
「得たものも、たくさんあったね!」
「――ああ」
玄咲もまた、己の100点という点数を見て、頷き、笑った。
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