第49話 切り札
「……ゴホッ」
HPは残り10%。地面に打ち付けた体が痛む。だが、すぐに体を起こさなければならない。
敵が、すぐそこまで来ているから。
(……参ったな。こちらに分があると踏んだ接近戦で負けるなんて。天才だな。司に剣術の領域なら僕が上と言われたが、とんでもない。彼が知らない技を知ってるだけだ。それさえ一度でコピーされ、上回られた。悪い司。君のアドバイスは役に立たなかったよ。今の僕じゃ勝てる気がしない。
だからといって遠距離攻撃はHPを削るペースよりこっちの魔力消耗の方が激しい。魔力消費を抑えたシングル・マジックなんて焼け石に水。そもそも彼は遠距離魔法、そして銃型ADの熟練も常軌を逸している。遠近両立。どちらも同等以上の練度。不得手が見当たらない。魔力的素質に劣る以外は、本当に完璧だ。もうこうなったら打てる手は――)
リュートはよろめきながらも立ち上がる。そしてカードケースに手を伸ばし、
(一つしかない)
カードを2枚入れ替えた。そしてMPポーションを飲む。
(――2枚。とうとう、切り札を切ってくるか。リュートの体質をもってしても魔力消費が絶大な、普通の人間では発動することすら敵わない、使った後には自らもまた反動で行動不能になるフュージョン・マジックを。勝負を、賭けにきたな)
玄咲もまた、リュートがカードを入れ替えたのを見て、カードを1枚入れ替える。カードの表面が見えないようにダーク・アサルト・バレットを排府し、同じく表面を隠して新たなカードをインサートする。この距離で絵柄が見えるかどうか分からないが、情報はなるべく隠しておきたい。
「――天之玄咲。君は強いな」
リュートが笑んで、玄咲に話しかけてくる。玄咲は首を横に振った。
「そうでもない。魔府士としては君の方が強い。魔法以外の部分で必死に誤魔化しているだけだ」
「――まぁね。その言葉も間違いない。でもさ」
リュートの言葉には含みがない。100%本音だけで話していると相手に伝わる何かがある。
「そんな君がこれからどう強くなっていくのか、僕は楽しみで仕方ないよ」
だからこそ、心に響く。
「……そうか。俺も別に、強さを諦めるつもりはない。断言してやる。俺は最強になってやる。だって、ずっとシャルの前を走らなきゃいけないんだ。そしてシャルを守らなきゃいけないんだ。俺自身がそうしたいんだ。だから、俺はお前にも永遠に負けない。絶対、勝ち続けてやる」
「……」
リュートが目を丸くして、玄咲を見た。
「なんだ」
「いや……ドライに見えて、意外と感情的なんだなって」
「悪いか」
「……いや、むしろ好ましいよ。魔府士らしい。改めてそう思った」
「……そうか」
なんだかんだで自分もこの世界に染まってきたらしい。リュートの言葉に気づかされる。しかし悪い気はしなかった。リュートと視線を合わせる。不思議な一体感。これがライバルなのだろうかとふと思った。
(……いや、男相手にこの感情はやはり少し気持ち悪いな……。リュートのことは嫌いじゃないんけどな……リュートが可愛い女の子ならいいのに)
「君も今、同じ気持ちなんだな。その熱い視線。間違いない――そんな君に、僕の全てをぶつける」
リュートが歩みだす。玄咲へと。
「切り札を切る。察してるだろうがな」
玄咲もまた歩みだす。リュートへと。
「ああ。俺にも切り札はある」
「そうか。当然だな。魔府士なら切り札の1枚2枚」
「ああ。もっとあるぞ」
「え?」
「冗談だ」
「……そうか。まだまだ、色んな秘密があるんだな。これから先、何を見せてくれるのか楽しみだよ。僕はいい学友を持ったよ」
「え? 冗談――」
「さぁ、言葉はもういいだろう。後はただ互いの全てをぶつけ合うだけだ」
「……そうだな。言葉はもういい」
リュートが駆け出す。玄咲も。真っすぐ、互いへと駆け出す。勝利を目指して。
己のADと、カードで、望む未来を切り開かんと。
正真正銘最後の対峙。
(――シャル)
最後に、シャルナを見る。その瞳は玄咲の勝利を何ら疑っていない。最初から最後まで、一瞬たりとも。
(――全く。嬉しいな。信用されるというのは。胸が暖かい。離れていても、戦っていても、一つ。俺もまさに今、そんな気分だ。シャルもこんな気分だったんだろうな。今、ようやく分かったよ)
微笑み、改めてリュートに視線を戻す。ADを振り上げている。視界の端でずっと確認していた。玄咲もまた引き金にかけた指に力を加える。
「フュージョン・マジック――!」
(さぁ、来い。4枚のカードを素材とする今のお前の最大の切り札――!)
そしてリュートがADを振り下ろす。
「――
(――シャル)
全ての条件が揃った。玄咲は微笑み、詠唱しながら引き金を引いた。
(勝ったよ)
「召喚――
世界が白い光に包まれる。
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