第48話 技量差

(そんな甘い展開、ある訳なかったな!)


 光の弾の嵐を盾と身のこなしで再びやり過ごす。防戦一方。だが被弾はない。もう3度目。盾なしでも躱せた。


(少しずつ慣れてきた。大分余裕が出てきた。しかし、本当にリュートは強い。そして俺は)


「フュージョン・マジック――三紡天蠍星スコーピオ!」


 伸長する光の閃刃を、もう慣れたものと黒い盾でパリィの要領でいなしながら、段々リミッターがぶっ飛んできた頭で思考する。


(弱いな。大空ライト君の糞雑魚スペックをまざまざと思い知らされる。レベル差があってこれか。主要キャラ最弱、精霊頼りの雑魚、七光りするG(ゴミ)の異名は伊達じゃない。天之玄咲の部分だけで頑張って凌いでるようなもんだ。ふふ、強い。俺は強いなぁ……! さて、大分分かってきたし、そろそろ、仕掛けてみるか!)


 ADの銃口をリュートに向けながら接近する。リュートは剣による迎撃を選択した。防御魔法で遠ざけ合うよりも接近戦でダメージを与える腹積もりらしかった。低燃費で発動できるとはいえフュージョン・マジックはフュージョン・マジック。魔力消費は相応に重い。長期戦にしたくないと考えたのだろう。炎条司との戦いで消耗した後なら猶更。遠距離攻撃が決定打にならないと分かった今、リュートは最も得意な接近戦で勝負を決めにきたようだった。


(そうくるよな……!)


 思いながら玄咲は盾を握る手に力を籠める。リュートが詠唱する。


「フュージョン・マジック――三紡獅子星レオ・サーキュラー!」


 リュートの剣が眩い光を纏う。威力が強化される他、剣のモーションに合わせて光が爆ぜ、短射程の遠距離攻撃にもなる。下手に鍔迫り合いをすると、剣から爆ぜた光でダメージを食らう。


「はぁああああああああ!」


 光を纏った剣が玄咲へと振り抜かれる。美しささえ覚えるほどに磨き抜かれた剣閃。物理的なモーションで魔法の威力は加速する。ただでさえ強力なフュージョン・マジックの威力が倍加する。剣術と完全に融合した魔法が玄咲を襲う。だが、玄咲は慌てない。冷静に盾を構える。


(攻撃をいなして即座に――)


 手に、違和。


 玄咲は反射で盾を思い切り突き出した。剣と盾の折衝点で光が爆発する。フュージョン・マジックが力のベクトルを逸らすことなく正面衝突したことで力の逃げ場がない。両者、弾き飛ばされる。玄咲は即座に盾の状態を確認。リュートの強力なフュージョン・マジックを真っ向から受け止めた黒い盾が大きく削れている。さとしと戦った時並の大きさ。だが、まだ十分使える。玄咲は再び盾を握り締め、リュートへと突進。同じくすぐに体勢を立て直したリュートの剣の構えを見て、推測を確信に変え、一切の迷いをその足運びから足切りする。


(――なるほど。純粋な剣技。戦場の異物。俺の知らない世界。だから戸惑った。けどもう慣れた。魔府士としての素質はともかく、単純に戦う才能は俺の方が格上らしい。要は、こういうことだろ――!)


 リュートが再び剣を振る。玄咲が再び盾を突き出す。


 盾に、剣が触れる。


 その瞬間――。



「――な」



 リュートの体が跳んだ。


 玄咲に跳ばされて。


 剣に込めた力のベクトルを頭上一方向へと完全に集約されて。


 先程リュートが玄咲にやろうとした技をそっくりそのまま――いや。


 ただ力の矛先を逸らすだけだったその技の先で、上位互換とでも呼ぶべき技で返された。リュートの心をこの戦闘中最大の、いや、人生でもそうない衝撃が襲う。絶対的な才能の差――リュートが心の底から抱いたことのない感情が今、リュートを初めて襲っていた。表情が歪む。


(――天、才か。それも、古今比類ない。おそらく、並ではないが非凡でもない単純な魔府士としての素質の劣等さえ覆す無双の戦才。1対1を基本原則とするカードバトルにおいて最も真価を発揮する才能! 君は、そういう魔符士か。心底、恐ろしくて、惹かれるよ……! 君と戦えばどこまでも上に行ける――!)


 リュートは逃げ場なき宙を跳ばされた状態で、それでも微塵も戦意を緩ませることなく、玄咲に剣の切っ先を向ける。




「フュージョン・マジック――三紡宝瓶星アクエリアス!」




 リュートの前に再び巨大な光の防壁が立ち塞がる。至近距離からのダーク・アサルト・バレットを無傷で受け止めた盾。カードを入れ替える時間はない。問題ない。玄咲は躊躇うことなく加速した。


(アルルの超音防波壁を思い出すな。少しは魔力に慣れてきたらしい。なんとなく分かる。あれと同等かちょっと上の防御力だな。その程度・・・・なら、ランクアップとバーサーク・デッドの魔法であの頃より強化された今の俺が本気で攻撃したら――さて。どうなるか、な! 答え合わせといこうか!)


 リュートを守る最後の防壁。光の防壁。その前で玄咲は強く地を踏みしめた。そしてそのまま跳ね返ってきた力と加速の勢い全てを回転へと転化。右後ろ回し蹴りを放つ。魔力の盾も含めた体の全重量が刹那、右足の先端一点に収束する。


 そこで、意図せざる事象が起こった。


 どうにも魔力の流れまで収束しているらしく、バーサク・デッドの赤い瘴気が右足一本に集中する。まるで瘴気の足甲を纏ったかのような見た目となる。どうやらバフ効果も右足に集中しているようだと、体感で理解できた。玄咲は驚く。


(!? 何だこれ!? ま、まぁ強くなるなら、何でもいいか!)


 魔法の強化さえも一時的に右足一本に収束させた渾身の一撃が防壁に突き刺さる。


 そしてぶち破った。


「!? 人間か、お前――!?」


 リュートは咄嗟にADの剣身を体と剣の間に挟み込む。魔法を詠唱する間さえない。玄咲の右足がリュートの星紡剣ステラの剣身を思いっきりぶっ叩く。


 そしてリュートを、戦闘フィールドの端まで一撃でぶっ飛ばした。

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