第46話 ラスト・バトル

「バーサーク・デッド」

 

 カードバトル開始直後の詠唱。こめかみに銃口を当てがい撃ちぬく。即座に玄咲の全身から赤黒い魔力の瘴気が発生し、デメリット付きの強化状態へと誘った。体に微量の痛みを覚えながら、玄咲はバーサーク・デッドの効果を脳内で反芻する。


(バーサークデッド。HPが最大値の半分になる代わりに、全ステータスが1,5倍になる魔法。死線の素材カードだけあり性能が酷似している。ローリスク・ローリターン版死線デッド・ライン。俺のHPは最初から50%。つまりノーデメリットで使用可能。死線は3枚もスロットを埋めるから他のフュージョン・マジックが使えなくなる上に、流石にリュート相手にHP10%で戦うのはリスクが高過ぎる。なにせリュートの魔法は――っと。か!)


「最初っから全力で行くぞ! フュージョン・マジック――三紡人馬星サジタリウス!」


 リュートが星紡剣ステラの切っ先を玄咲に向ける。背後に現れた無数の光点から次から次に魔法の光弾が放たれる。逃げ場などないように見える光弾の絨毯爆撃を真っ向見据えながら、玄咲は己もまたフュージョン・マジックを発動させていた。


「フュージョン・マジック混沌魔晶ドミネイト・オーラシルド!」


 なんとなくゲームでの名称である盾をつけての詠唱。かつてさとし相手に使った時よりも一回り大きく、ぶ厚く、密度高い魔力の黒い盾を足元から引き抜き、玄咲は光弾の絨毯爆撃へと飛び込む。


(一見、回避不可能な弾幕攻撃。だが、しっかりと密度の差を見極め、最低限の魔力弾を掻き消しさえしてしまえば!)


 玄咲は黒い盾で体を覆いつつ光の絨毯の一点に飛び込む。黒い盾で弾幕をこじ開ける。


(ルートができる! あとはそのルートを通れば――!)


 もう盾で身を防ぐことすらしない。高速ステップで弾と弾の間をすり抜け、盾の消耗を抑えながらあっという間にリュートへと接近する。リュートが再び詠唱する。


 フュージョン・マジックの呪文を。


「フュージョン・マジック――三紡天蠍星スコーピオ!」


 星紡剣ステラの剣身が眩い輝きを纏う。リュートが剣を振りぬく。


「光ヶ崎流魔法剣・流々閃刃!」


 一瞬で伸長した光刃が液体でも振りぬいたかのような鋭さで玄咲へと襲い掛かる。玄咲は慌てずその場でどっしりと構えて攻撃を迎え撃った。


「――ここだ」


 最も重力が乗った――魔法だがそうとした言えない――部分を下から跳ね上げるようにかち上げ逸らす。リュートが驚きながら剣閃を弾かれた衝撃で体勢を崩す。玄咲は即座にADの銃口をリュートに向けた。


「ダーク・アサルト――」


 銃口を僅かに右上にずらす。素晴らしい反射神経でリュートは剣をやや右上に追随してずらす。


「バレット」


 即座に手首を翻して左の太ももを狙った。クゥにも断片的に見せた神速の早業。リュートもさるもので即座に反応して見せたが、対角線への急な射撃は対応は仕切れなかったようで、剣に掠って角度をずらしたダーク・アサルト・バレットが太ももの肉を抉る。リュートは体勢を崩しながらも、銃口を向けて接近する玄咲へと星紡剣ステラの切っ先を向けて即座に詠唱した。


「ダーク・アサルト――」

「フュージョン・マジック――三紡宝瓶星アクエリアス!」

「バレット」


 リュートの前に巨大な光の防壁が顕現した。中央に星マークの入った、短時間しか持たない代わりに強力な防御力を誇る円形の壁。ダーク・アサルト・バレットを問題なく防ぎ、その後の玄咲の接近をも防ぐ。玄咲は即座に距離を取った。今玄咲がスロットしているカードでは目の前の防壁の突破は難しい。時間をかければ可能だろうが、そんな悠長を目の前の相手は与えてくれない。リュートが4度フュージョン・マジックを発動し、後退する玄咲を追撃にかかる。


「フュージョン・マジック――三紡人馬星サジタリウス


 光弾の絨毯爆撃。先ほどと同じ要領で後退しながら攻撃を捌く。


 一撃、肩を掠めた。


 それだけでHPが、45%に減った。


(流石だな。リュート――!)


 リュートはこれまでフュージョン・マジックしか使っていない。通常なら膨大な魔力消費により、適正ランクのフュージョン・マジックを発動したならば普通2回。多くて3回しか発動できない魔法を4回も発動している。


 なのに、魔力切れを起こす気配が全然ない。


(光ヶ崎の完成形。光ヶ崎リュート。恐ろしい血だ。1000年に一度の天才と言われるだけのことはあるな)


「……玄咲の、言ってた、通りだ」


 戦闘フィールドの端で、シャルナもまた、リュートの戦闘を見て、戦慄いていた。


「フュージョン・マジックを、連発してくる。それも、どれも高練度。隙が全然無い。――今まで見た、玄咲以外の、1年生の中では、真っ当な条件で、カードバトルしたら、一番強い、かもしれない……!」


 シャルナの言葉をしっかり耳に入れながら、玄咲は心の中でシャルナに頷き返す。


(……その見立ては間違いじゃない。リュートはいずれ学年最強となる男。炎条くんを倒した今既に、最強かな。そして学校、どころか世界でもトップクラスの魔符士となる。かたくなにストーリーの肝所で大空ライト君に負けるのが不思議で仕方ないくらいに、強くなる。なにせリュートは――)


 己の生命線たる黒い盾を握り締めて、リュートを油断なく睨む。ゲームでも死ぬほど強くて頼りになったリュートの戦闘時顔アイコンをその顔に重ね合わせる。


(大空ライト君とは星と蟻んこ。世界一の強者を決める戦い【天下壱符闘会】の結論メンバーだからな――!)


「また行くぞ! フュージョン・マジック――三紡人馬星サジタリウス!」


 再びリュートがフュージョン・マジックを発動する。光弾の嵐に、再び玄咲は飛び込む。その脳裏に、かつてシャルナと交わした会話を思い出しながら――。

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