第51話 精霊と絆

「まさか、五光極星刃クインテット・ニルヴァーナを使ってくるとは思わなかった。驚いたよ」


 三日月が照らす山頂のド真ん中。地面に倒れ伏すリュートへと、玄咲は感嘆の吐息を落とした。五光極星刃はレベル40時点のリュートの魔力を全消費してようやく発動可能な5枚のカードを素材とするフュージョン・マジック。ゲームでの現時点のリュートのレベルは35で切り札は4枚のカードを素材とする四煌聖龍星ドラゴ・インパクトだった。どうやら炎条司への勝利がリュートをランクアップへと導いたらしい。リュートが苦笑して玄咲を見上げる。


「……その割には冷静に対応していたように見えたが」


「メリーが破られるはずないからな。信用してた」


「なる、ほど。精霊との絆。フッ。それが君の最大の力なのかもしれないな」


「……」


 玄咲は数秒沈黙する。それから、やや自嘲気味の笑みを浮かべながら、言った。


「……まぁな。このイベントもメリーがいなければ途中で負けてた。君との戦いもメリーを前提に作戦を組んでた。そしてバエルがいなければ大事なものを失っていた。穢されていた。割と精霊便りの男だよ。俺は。はは、ちょっと不甲斐ないがな……」


「いいじゃないか別に。魔符士と精霊は一心同体。精霊に認められたなら、もうその力は君のものさ」


「……そうかな」


「ああ。認められるってことは、それだけの格があるってことだ。過去精霊に選ばれた魔符士の中で尋常な人間は一人もいなかった。君もそうだ。それに……エレメンタルカード抜きにしたって、勝てる気はしなかった。その、メリーちゃんがいなかったらその前提で作戦を組んでいたんだろう?」


「……そりゃ、な。死ぬ気でお前を倒していたはずだ。もう一つだけ、切れる切り札もあった」


 脳のリミッターを外すという裏技、というか荒業が。ハイリスクなので使わないに越したことはないが、メリーがいなかったら使わざるを得なかったかもしれない。あくまで可能性の話だが。


「そうだろう。君はそういう奴だ。精霊抜きでも君は立派に強い。そんな君だからこそ精霊も慕うんだろう。だが、強いからこそ、精霊に頼らざるを得ない場面、力不足だったと自分を責める。それも一面的には間違っていないがな。だがそれでもあえて言っておく」


 リュートが身を起こし真面目な顔で告げる。


「本気で強くなりたいなら精霊の力を借りることを躊躇うな。知ってるだろ。先の先のステージ――天下壱符闘会はそんな覚悟で戦える甘い場所じゃない。精霊にもっと頼れ。変な遠慮をするな。それが僕からの――精霊にやられた僕からのアドバイスだ。ま、できれば受け取ってくれよ。君の今後に大きくかかわってくる話をしているつもりだ。精霊の力をなるべく使わずに戦う。それはな、精霊を信用しきっていないのと同じだ。いつか使えなくなる。そんな恐怖を抱いているってことだからな。もっと信用しろ。自分を委ねて、一つになれ。今の君の態度は魔符士としての弱さだ」


「……リュート」


 リュートの言葉は暖かく、そして玄咲の心理的な弱みを的確に見抜いていた。精霊を頼り切れない。玄咲にはそういったところがあった。だが、先の先を見据えるならば、玄咲の素質の低さと、虹色の魔力のエレメンタル・カードが符号魔法という特性を考えるならば、精霊の力は必ず必要になってくる。


 ならば、変なプライドを発揮して傷ついている場合ではない。


 レベルアップの熱を感じる。それでいいのだと裏付けてくれる。リュートに玄咲は感謝を捧げた。


「ありがとう……そうだな。君の言う通りだ。これからはもっと素直に精霊を頼るとしよう」


「それでいい。精霊に選ばれた者にはそれだけの資格がある。精霊の眼は確かなんだ。ふさわしくないものには絶対力を貸さない。精霊神に認められた男だ。君は。もっと自分を誇れよ」


「ああ」


 玄咲は頷く。リュートは笑った。


「うん。それでいい。しかし、強かった。今まで戦ってきた相手の中で、一番怖かった。君の心の芯はどんな状況でも決して揺らがなかった。ただ才能があるだけじゃ決して身につかない心根の強さが育まれている。修羅場を、超えてきたんだな。本当の意味で、強い。尊敬するよ、君を。僕の、ライバル」


 リュートが笑みを浮かべて拳を突き出す。玄咲もまた笑みを浮かべて拳を伸ばし、そして突き合せた。


「いい戦いだった。またやろう」

「ああ」


 コツン。


 拳を突き合わせる。勝者と敗者の垣根を越えて確かな友情が響き合った。

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