第39話 シャルナと内緒話

「そういえばさ、玄咲」


 ベッドの隅で隣り合うシャルナが尋ねてくる。


「なんだ、シャル」

「以前の、クララ先生との、内緒話。あれって、私が、白い目で、見られたり、してるって、話だよね?」

「げふっげふっ!」

「大丈夫?」


 むせ込む玄咲の背中をシャルナがさする。一瞬で必要以上に精神力を回復した玄咲はシャルナに尋ねる。


「き、気づいてたのか?」

「うん。気づいてた。いつも、玄咲が、さりげないと、自分では思いながら、庇ってくれてた、こともね」

「……本当に?」


「本当。玄咲がね、私に、幸せな世界だけ見せたいって、思ってくれるのが、凄く嬉しいから、気付かないふり、してた。けど、もう限界だね。あんなこと、されちゃね……」


「シャ、シャル、その、気にしなくていい。俺が、バエルが、絶対に君に危害は加えさせない。だから、気にしなくていい。今まで通り平和で幸せな学園生活を――」

「気にしてないよ」


 さらっと、シャルナが告げた。本当に気にしてない。玄咲にもそうと察せられる気楽さで。


「――えっ?」

「私はね」


 すり。


 シャルナが身を寄せて、照れくさそうにはにかむ。


「玄咲が、隣にいて、笑顔を、見せてくれたら、それでいい。他の人の、ことなんて、どうでもいい。何でも、平気、へっちゃら、だよ。一緒にいれば、心が、無敵に、なるの」

「……そ、そうか」


 心が甘くむず痒い喜びを抱く。シャルナの少し重い愛が、いつも愛に飢えている玄咲には丁度良かった。ぴったり嵌り合う。シャルナはさらに、


「それとね」


 にこり。


「いつも、さりげなく、庇ってくれて、ありがとね」

「――」


 玄咲は照れて視線を逸らしながら、訪ねた。


「俺がシャルを守るのは、幸せにするのは、当然のことだよ。この世に空気が存在するのと、太陽が天に存在するのと、CMAが傑作なのと同じくらい、当然のことだ。礼を言われるようなことじゃない」

「当然じゃ、ないよ。玄咲だけだよ。私を、こんなに、守って、愛して、くれるのは。いつもね、本当に、ありがとう。いつも、毎日、平和だった。楽しかった。嬉しかった。幸せだった。玄咲が、隣に、いてくれたから、だよ。本当に、ありがとう。そしてね、これからもね」


 ギュっ。


 シャルナは腕を抱き締めてもたれかかる。そして、本当に幸せそうな表情で言った。


「これからも、私と、ずっと、一緒に、いてね」

「……うん」


 シャルナが腕を絡ませたまま手を握ってくる。玄咲もその手を握り返した。ずっと一緒にいる。そんな思いを込めて、固く、固く、ギュッと。

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