第34話 虐殺終了

「こんなもんでいい? 玄咲。この糞キモイ悪人顔はなんか生理的に無理だから念入りにやっちゃった。この通り」


 バエルが脊髄ムカデになった馬場英治の頭部を可憐に微笑んで玄咲に見せつける。白目を剥いて絶叫したまま事切れている。苦笑しつつ、玄咲は礼を述べた。


「ああ。最高の仕事だ。ありがとうバエル」


「どういたしまして。と言っても、SDの出力じゃこれが限界だけどねー」


 バエルが馬場英治の脊髄ムカデをポイ捨てしつつ、全ての死体が原型を残した虐殺現場を振り向く。魔力節約のため素手で蹂躙した結果だ。四肢欠損は当たり前、頭が割れ砕け、眼窩が穿たれ、耳が千切れ、鼻が陥没し、口に糞が突っ込まれ、首が捩じれ、肩が凹み、心臓がぶち抜かれ、腹が開かれ、中身をがらんどうにされ、股を裂かれ、事切れた死体の中に馬場英治の脊髄ムカデがポーンと混じる。カミナはバエルが間違ってあっさり殺してしまったため、頭が陥没してるだけの綺麗な死体。だが、死体。そこに躊躇はない。凄惨な、地獄のような現場。「うーん……楽しかった!」。その只中にあって尚、見惚れるほどに美しいバエルが気持ちよさそうに伸びをする。バエルは終始余裕だった。遊んでいた。苦戦など、するはずもなかった。


 バエルは最強だった。


(……相変わらず、凄いな)


 少しだけ、引く気持ちもある。けれど、その全てを玄咲のためにやってくれたのだと思えば、やはり最後に湧き出る気持ちは感謝しかなかった。


「本当、ありがとう。助かったよ。君がいなかったらどうなっていたことか……」


 力なく笑いながら、玄咲は礼を言う。バエルは少し思案して


「……玄咲、ちょっと来て」

「? ああ……」


 バエルは近寄った玄咲の頭を優しく撫でた。


「あまり自分を責めないでね。あなたがそこまで弱い訳じゃないわ。レベル差が悪いの。だからそんなに落ち込まないで。酷い顔よ」


 玄咲は、驚いた。バエルの行動もだが、そのシーマを思わせる優しさに、雰囲気に。らしからぬ、でもうんと魅力的な優しい笑みに。前から薄々感じていた今核心に変わった。


 バエルは少しずつ変わっている。





(――にしても)


 玄咲を撫でながら、バエルはちらり、とシャルナを見る。2人から少し距離を置いて俯いて、動かない。その心に、傷が入っている。バエルは、少しだけ嫌な気持ちになった。その心に、驚く。


(……私も短期間で随分と甘くなったものね。ま、あいつらに比べたら、全然マシだしね。玄咲のこと抜きにすれば、彼女が所有者でもいいって思えるくらいには、魔力相性もいいし。玄咲がいるから絶対NOだけど。っと)


 バエルの体が透け始める。魔力切れの証。サッと離れて、残念そうに笑う。


「もう現界が限界みたい。今日の出番はこれで終わり。またディアボロス・ブレイカーで召喚してね」

「ああ、必ず」

「うん。またね」


 消える寸前、シャルナの方を見て、


(シーマちゃんと玄咲に、私も短期間で随分と丸くさせられたわね。でも)


 優しく、笑った。


(嫌な気分じゃない)


 シュバッ。


 


(……ありがとう)


 バエルのカードが宿るSDを撫でながら、心の中でもう一度感謝を告げる。それから、シャルナを振り向きかけて、


「……これは、随分派手にやりましたねぇ」


 天使の、声がした。

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