第6話 アルルとキララ

「天之玄咲いるー?」


 1年G組の教室の扉をギギィ―ッと開け放ってアルルは快活に言い放った。返答はない。だから立ち入る。アルルに視線が集まる。あるいは、アルルが視線を引き寄せる。


「あいつ、アルル・プレイアズだ。あのプライア女王の愛娘だぞ。な、なんて美貌だ。光みたいだぞ」


「ゴクリ、ここが、学校でさえなかったら……」


「馬鹿野郎。アルルに手を出したらプライア女王にサンダージョーにされちまうぞ」


「あたいには丸わかりだよ。あの女の笑顔の裏は股間と同じで真っ黒だってね」


「ま、真っ黒? マグロって、ことなのかー? でへへ」


「ちっ、金持ちが舐めた顔しやがって。ハァ、ハァ、舐めさせてーゾ……!」


 アルルの笑顔が引きつる。最悪の治安。アルルの所属するB組とはまるで別世界。二度と立ち入るまいと一瞬で決意しつつ、アルルは話しかけるに手ごろな生徒を探す。


「お、可愛い子」


 すぐに、G組には似つかわしくないキラキラした風貌の女生徒を見つけた。水色の髪を巨大なツインテールで両サイドに分けた、星が煌めくようなつぶらな大きな瞳の可愛らしい女の子だ。眼の下には大きな逆三角形の隈がある。昨日夜更かしでもしたのだろうかと思いながら、アルルは手を挙げてニコニコ女生徒に近づいていく。


「ちょっと! そこの可愛い子!」


「んー? 可愛い子ってことは、私のことかぁ。なぁに?」


「うん。君、可愛いね。じゃなかった。天之玄咲がどこにいるか知らない?」


「あー、彼ならついさっき恋人と一緒にどっか行ったよ。どこ行ったかまでは知らなぁい」


「あっちゃー、すれ違っちゃったか。この学校広いから探すの大変なんだよねー。ま、しょうがない。探そっかな」


 明るくそう言って、アルルは女生徒の両手をギュッと握る。


「答えてくれてありがとね! このクラス怖い人多くて、君みたいな可愛い女の子がいてホッとしたよ」


「距離、近いんだけど」


「いいじゃん。女の子同士なんだから。ねぇ、僕と友達にならない? 僕、君みたいな可愛い女の子が大好きなんだ!」


「……」


 女生徒は数秒アルルを見つめた後、ニコリと笑った。


「いいよ。私もアルルちゃんと友達になりたいなって思ってたとこなの」


「ありがと! えっと、君、名前は?」


死水綺羅々しみずきらら。キララって、呼んでね」


「可愛い名前だね。じゃあ、キララちゃん。これから、よろしくね」


「うん。よろしくね。アルルちゃん」


 キララは天使のように笑う。きっと中身も名前やこの笑顔と同じようにキラキラしてて綺麗なんだろうなとアルルは思った。


「じゃ、僕はこれから天之玄咲を探しに行くから、キララちゃん、待ったねー!」


「うん。キララちゃんと仲良くしてね」


 手を振りあって別れる。キララはすぐに笑顔を消して顎に手を当てて考えた。


「あのアルル・プレイアズに気に入られてるのかぁ。天之玄咲、クラスヒエラルキーも高いしちょっと唾つけとくか」

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