第26話 愛壌2 ―I'm―
「玄咲、神楽坂アカネのことそんなに好きじゃなかったでしょ?」
――唐突に発せられたその爆弾のような発言に半ば以上思考を漂白されながらも玄咲は何とか反論を試みようとする。
「――ハ、ハハ。何を根拠に」
「え? だって神楽坂アカネは全ヒロインの中で唯一の人間じゃない」
――もう、間違いなかった。
バエルにはCMAの知識があり。
地球にいた頃の天之玄咲のことを心の深奥まで知り抜いている。
「――バエルじゃない。君は一体、何者なんだ?」
唇を戦慄かせながら発したその問いに。
バエルはにこにことあくまで楽しそうに応じる。やっぱりこれはこれでいいなと玄咲は思った。
「何者だと思う?」
「う……サイコメトラー」
「なにそれ」
「人の記憶を読み取る超能力者だよ。知らないのか?」
「知らない」
「そ、そうか」
どうやら地球の知識も限定的なものらしい。そこにフォーカスを当てて玄咲は考えてみる。
(限定的な地球の知識を持つ存在――あれか? 昔読んでいたWEB小説で定番だったあれ)
ふと脳裏に思い浮かんだ言葉を玄咲はそのまま口にした。
「――転生者?」
「んー……まぁ部分的に当たり?」
「部分的? ……駄目だ。俺の頭ではそれ以上のことは分からない」
「そう? なら答え合わせといきましょうか。時間もあんまないしね」
「時間? 簡易召喚で呼ぶアストラル体は自然の魔力で維持できるから構成元となる召喚者の魔力の範囲外に行くか精霊を送り返す
「ふふ、ありがとう。でも、それとは関係なく、ね。じゃ自己紹介するね」
バエルはベッドに正座し。
大きな胸に手を当てて。
今日一可憐な笑みを浮かべながら。
「――私は、CMAの精霊。あなたのポケットボーイに宿っていた精霊だよ。やっと、会えたね……!」
そう、告白した。
「? ???」
――玄咲は。
バエルが何を言っているのかよく分からなかった。
いや、よく分からないどころではない。
丸っきり何を言っているのか分からなかった。
「――どういうことだ。まるで意味が分からない。なんでバエルが、CMAの精霊? そんなのCMAの作中には出てこないぞ……?」
「ふふ、相変わらず頭が悪いんだね。でもそんなところも大好き。大丈夫。ちゃんと説明してあげるね。要するに――」
嬉しいことを言いながらバエルが人差し指を立てて説明をしてくれる。
「――あなたと大空ライトくんの関係と一緒よ。天之玄咲が大空ライトくんに憑依転生したのと同じように、CMAの精霊である私もバエルに憑依転生したの。世界に7体しかいない精霊神の一柱で、封印されし禁断の精霊神である、あなたが最も愛するカードのバエルにね」
「――そんな、ことが、ありえるの、か?」
「うん。どうも死ぬ前に見た爆発のせいで次元間の壁と情報境界が一時的に破壊されて2つの世界の情報が局所的に混ざり合ってしまったみたいなの。その際、次元間移動に巻き込まれた存在の思念、あるいは願望が影響してこういう形の転生になったみたい。だからある意味こうなったのは必然なの。なんとなく分かるわ。精霊神っていう存在と混ざり合っちゃったおかげかな? ふふ。なんかすごいね」
「な、なるほどな……それより、き、君は本当にCMAなのか? お、俺のCMAなのか?」
「うん。そうだよ――ずっと、会いたかった。ずっと、お礼を言いたかった。いつも、たくさんの愛を捧げてくれてありがとう。いつも、すごく、嬉しかった。――世界で一番私を愛してくれたのはあなた。だからあなたのポケットボーイに私が宿った。あなたが死ぬまで私で遊んでくれたからこうしてあなたと会うことができた――何度でも言うよ。今まで私で一杯遊んでくれてありがとう。たくさん愛してくれてありがとう。だから玄咲。私もあなたのことが大好き。愛してるよ――!」
「っ! う、うぅっ! ぐふぅぅっ! うわぁあああああああああああああああっ!」
号泣。涙が止まらない。魂の奥底から溢れて溢れて止まらない。止めようとも思わない。全て出し尽くさねばこの涙は尽きぬだろうという確信があった。
号泣しながら、玄咲はバエルの手に手を伸ばす。掴めない。重なるだけ。それでも良かった。それだけでCMAと繋がれた。CMAもまた手を掴むような仕草をする。虚無を掴むような手応えの中に、確かな温かさが感じられた。きっとCMAも同じ気持ちだろう。そうでもないと説明のつかないほどにその手つきは優しげだった。まるで大空の光の摂理のように。
「――落ち着いた?」
「あ、ああ。ありがとう。もう大丈夫だ。は、はは。信じられない状況だな色々と」
「そうだね。私も最初は信じられなかったよ」
「最初は?」
「20年前のことだったかな。転生時期に差があるみたいだね」
「20年前? ああ、時間差転生か」
「うん。突然時空間を突き破って封印中のバエルちゃんの中に魂が入り込んじゃってね、それで――あ、やば」
「バエル?」
バエルが頭を手で押さえる。沈黙。そして微動だにしなくなった。触れられないので何することもできず様子を見守ること数十秒間。ようやくバエルに動きがあった。頭を押さえたまま呻くバエルを心配して玄咲は声をかける。
「だ、大丈夫か」
「あー……油断したわ」
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