第43話ダンジョンライブ社取締役会
本日はダンジョンライブ社の取締役会の日
本日の決議事項は代表取締役の選定である。
島本麗香専務は勝利を確信していた。
(漸くこの日が来た。公式チャンネル登録者20億人、魔石のような数百万円するものが飛ぶように売れる。何より株式時価総額1000兆円の世界一の企業。その大企業の代表取締役になる、私が。配信関係、魔石の功績は全て私のもの。取締役会のメンバーはそのことを重々理解しているし、ほとんどが専務派だ。振り返ってみれば、私の会社員人生は華々しいものではなかった。ジジイ共に屈辱的な事を強いられ、陰で泣く日々。そんな屈辱的な日々に耐えられたのも何時か私が頂点に立ち、奴らを上から見下ろすためだ。)
「それでは、代表取締役の選定の決議を行います。島本麗香専務の代表取締役就任に賛成の方は挙手をお願いします」
議長から代表取締役就任決議が促される。
島本麗香専務の心は高揚していた。
(漸く来たか。私はこの時の為に生きてきたと言っても過言ではない。ジジイ共、覚悟しておけよ、私が受けた屈辱何百倍にして返してやる!)
その時、一人の男性社員が息を荒くして部屋に飛び込んできた。
「お待ち下さい!」
「何だ、取締役会の途中だぞ。後にしろ!」
議長や他の取締から男性社員に非難の目が浴びせられる。
だが男性社員は気にせず続ける。
「その決議は行うことが出来ません! こちらを御覧ください」
男性社員は自ら持っていたタブレットを取締達に見せ、会議室のモニターを点けた。
その内容に取締達は驚愕した。
『島本麗香専務の悪事』というタイトルで剛力剛毅が緊急動画を出していた。
『リスナーの皆さん、驚かせてしまって申し訳ございません。現在行われているダンジョンライブ社の取締会に合わせてこの様な動画を出させていただきました。皆さんにはこの動画を見てある人物に対するご判断を頂ければと思い、今回の動画を出させていただきました。ではこちらの音声をお聞きください。』
『僕にその魔石を使えと? まだ誰もダンジョンで使っていなく、安全性も確保できていないのに』
『そちらに広告収益をお支払いしているのはどこですか? 止めることもできるのですよ。それに、あの力は何ですか? 魔法? チート行為ではないのですか? 規約に基づき、ダンジョンへの立ち入りを禁止することもできるのですよ』
更に剛力は別の場面の音声を流す。
『何故シャドウが出現した後にダンジョンを立入禁止にしなかったのですか? 1回目は想定出来なかったとしても、2回目は出来ましたよね? 僕がいなかったら何人人が死んでたんですか!!! ダンジョンライブは配信サービスの他に、ダンジョンの運営、土地の所有権を持っているはずです。立入禁止にすることは出来たはずですよね⁉』
『何を仰っているのやら。このダンジョン全盛の世の中で立ち入り禁止にすることなどできますか? 配信者達如きの命と世界トップクラスの企業の利益とどっちが大事だと言うのですか? 青臭い、青臭いですよ。社会経験の乏しいお子様には分からないようですね。競争の世界に身を置く厳しさなど想像出来ないでしょうね。』
”うわ、引くわ……”
”何この女……”
”命を何だと思っているんだ……”
”ワイさん、よく公表してくれました”
”ワイ君、辛かったね……可哀想”
”ワイさん、頑張って下さい!”
剛力のチャンネルのコメントは島本専務への批判と剛力への応援で溢れていた。
”ダンジョンライブ社最悪だな……”
”ていうかこの女専務だろ”
”いや、この女を雇ってるダンジョンライブ社もだろ”
”命軽視し過ぎ”
”収益停止と立ち入り禁止ってこの女何様!!!”
”やめろ島本”
”そうだ、そうだ、やめろ!”
ダンジョンライブ社のホームページは完全に会社と島本専務への非難一色だった。
「な、何が起こっている……」
島本麗香は全てが崩れ去っていく現実を受け入れることが出来なかった。
(今までどんな屈辱的な仕打ちにも耐えてきた。その結果がこれか……女としての幸せを捨てて出世に全てを懸けてきた、ただそれだけなのに、何故コイツは私の邪魔をする!)
「これではとても新たに代表取締役を選ぶことなど出来ませんね。それと島本専務、今後の進退を考えた方がよろしいかと」
議長は、この場で代表取締役を選ぶことは出来ないことを告げ、更に島本専務の今後の身の振り方を冷たく言い放った。
『僕は島本専務にやめて欲しくてこの動画を出したわけではありません。ただ真実を知って欲しかっただけです。この件をどう捉えるか皆さんに託します。その結果、僕に批判があったとしても全て受け止める所存です』
”ワイさんは悪くない”
”悪いのは島本専務とダンジョンライブ社だ”
”ワイ君、よく言ってくれた!”
”みんな、ワイ君の味方だよ”
”島本専務やめろ! ダンジョンライブ社潰れろ!”
”そうだ、そうだ”
この動画の切り抜きはあっという間に世間に広まり、世論は剛力の味方、ダンジョンライブ社と島本専務への非難一色だった。
今後ダンジョンライブ社はこの件への対応と、株価暴落の憂き目にあう。
『ここまでご覧いただきありがとうございました』
剛力は動画を締めくくる。
ダンジョンライブ社の会議室からは取締役達が退室し、島本専務のみが取り残される。
「う、うわあああぁぁぁぁぁ!!!!!」
島本専務は今まで懸けてきた全てを失い壊れてしまうのであった。
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