第40話ニートになった理由

 ワイは自室で考え事をしていた。

 ニートだった頃の事を。

 ワイが何故ニートになったのか説明する為には、ワイの人生や、両親の事を説明しなければならない。


 両親は同じ商業高校を卒業して、同じ税理士事務所に就職した。

 2人共働きながら資格の勉強をし、父上は税理士、母上は公認会計士の資格を取った。

 母上は税理士事務所を辞め、監査法人で働いていたが、その監査法人も姉上を妊娠したタイミングで辞めた。


 両親は、ワイら姉弟に簿記を教えた。

 だが、上二人の姉兄はそんなに興味を持つ事もなかった。

 何故かワイだけ簿記にどハマりし、同級生がゲームで遊んでいる中、一日中簿記の問題を解いていた。


 ワイら姉弟は両親と同じ商業高校に進学した。

 姉上と兄上の簿記の成績は良くも悪くもなかった。

 ワイだけ3年間簿記の試験は満点だった。


 一度たりとも99点以下を取ったことはない。

 他の教科の成績は普通だった。

 ワイの個人的意見として、数学より簿記の方が簡単に思えた。


 子供の時から勉強しているから、他の生徒よりアドバンテージがあるというのもあるが、仕分けさえ出来れば、貸借対照表、損益計算書、試算表、精算表、伝票の問題は簡単に解けていた。


 ワイは簿記の天才と同級生からもてはやされた。

 逆に言えば、それ以外の個性がなく、只のコミュ障モブキャラだった。

 見た目が良い人もいれば、運動神経が良い人もいる、音楽や絵が得意な人もいる。


 そういう人達を羨ましいという気持ちもあったが、ワイにはこれしかないと簿記を頑張った。

 同級生に好きな子がいた。

 勿論告白なんて出来るはずもなく、ワイの片思いだった。


 その子は簿記が苦手らしく、よく教えてあげていた。

 両想いになれるなんて思ってもいなかったが、放課後の時間が淡い幸せな時間だった。

『剛力君のおかげで80点取れたよ!』なんて喜んでくれた。


 ぼんやりとした時間しか過ごしてこなかったワイとしては、こっちが感謝したい位だった。

 就活の時期、ワイはその子が志望している税理士事務所に一緒に入れれば良いなんて軽く考えていた。


 現実はそう上手くいかなかった。

 彼女はめでたくその税理士事務所に就職でき、ワイは落ちた。

 そりゃそうか、一方は明るく社交的、一方は社会不適合者のコミュ障。


『剛力君のおかげで合格出来たよ!』なんて目に涙を浮かべて感謝された。

 その言葉だけでワイの3年間は報われたと言える。

 だが、その感謝に浸っている暇もなく、ワイには就職先を決めないといけないという現実が待っていた。


 色々受けた結果、ダンジョンウェポン社というダンジョンライブ社の子会社に就職が決まった。

 ダンジョン配信社向けに武器を販売する会社だ。


 ワイはその会社に事務や会計ではなく、営業として入社した。

 生活もあるし、入社出来るだけでも有難いと思った、その時は。

 だが、生粋のコミュ障でもあるし、何百万、何千万円といった武器が簡単に売れるわけがなかった。


 先輩からは『早く契約取って来い、無能! まあ、取ってきたとしても俺らの手柄だがな』と、ロッカールームで暴力を振るわれ逆らえなかった。

 事務員さん達はサボってばかりで、ワイに仕事を押し付けた。


 ワイは昼間は営業の仕事に出て、何とか契約を取れても先輩に手柄を横取りされ、営業から帰って来てからは、事務員さんに押し付けられた仕事を朝までに片付け、朝少しだけ家に帰るという生活を送っていた。


 先輩からは『無能、無能、無能!』と罵られ、殴られ、事務員さんからは、『あいつ、ちょろいって、押し付けた仕事何でも引き受けるんだから、馬鹿ね』と陰口を叩かれ、肉体的にも精神的にも限界を迎えていた。


 そしてある日倒れた。

 どこにでもあるようなブラック企業でパワハラを受け退職みたいな話、なんて本当は軽々しく言ってはいけないだろうが、事実だからどうしようもない。


 ネットで検索したら、大量に出てくる似たような事例の一つ。

 もっと誰にも考えつかない理由で、笑い話にでも出来れば良かったけど、そんな特別な理由でなかった。





 そんな過去の事を振り返っていたら、部屋のドアがノックされた。

 父上だった。

 父上を部屋に招き入れるが口を開かなかった。

 痺れを切らしたワイは話しかける。


「何? どうした?」


「ちょっと、男同士話したい事があってな……」


「うん、聞くよ」


「お前、成長したな……どこに行ってもお前の話題ばかりだ……テレビや雑誌でもお前の話題ばかりだし……」


「ああ、もういいって、家族に言われると、恥ずかしいから……」


 昔は馬鹿にしてきた家族も、最近は褒めてくるばかりだ。

 気持ち悪いったらありゃしない……。


「それと謝りたい事があってな……」


「謝る? 父さんに謝られる覚えはないけど……」


「お前が会社勤めしている時だ……お前は少しだけ家に帰って来てたが、顔色は悪いし、表情は虚ろだった……ほとんど寝てなかったんだな……お前が倒れたと聞いた時は、俺は甘えだと思った……でも、違った……お前は休まなければいけなかった……俺はそんなお前を罵倒して最低な父親だ……本来は家族を守る立場の人間なのに……う、うっうっうっ……」


 父上、いや父さんはワイ、いや僕を嗚咽を漏らしながら優しく抱きしめた。


「分かったよ……もう分かったよ……」


 あの厳しかった父が泣きながら詫びてくるなんて思いもしなかったが、こういう優しい一面もあるんだと、僕も優しい気持ちになった。



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ここまでお読みいただきありがとうございました。

小説どころか文章もほとんど書いたことのない作者の作品にお付き合いいただきありがとうございます。


最終回みたいな雰囲気ですけど、普通に続きます。

主人公の成長と内面の変化があったので、今後は一人称をワイから僕にしようと思いあとがきを書かせていただきました。

心の中ツッコミは今まで通り関西弁でいこうと思います。


執筆経験の少なさから読みづらさはあると思いますが、今後もお読みいただけると嬉しいです。




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