第38話ダンガの薔薇 黒華ローズ登場

ワイ達が店を後にした瞬間、目の前にとある集団がいた。

中心に女性がいて、その周りに数々のイケメン達がいた。

その集団はこちらに明らかに敵意を向けていて、こちらというか、特にワイだった。


女性は大人っぽく、彫りの深い顔をしたハリウッドセレブ風だった。

と言っても、ワイ、ハリウッドセレブの知り合いなんていないし、名前も一人も出てこんけども。


男性達は、爽やか系、ワイルド系、子犬系、インテリ系と言った女性をターゲットにしたソシャゲに出てきそうなイケメン達だった。

そういうソシャゲの事も知らんけども。


「黒華……どうしてアンタがここに……」


「黒華さん……どうして……」


ん? 2人は目の前の女性と知り合いなのだろうか? 集団の敵意は全てワイに向かってるようやけども。


「今日は貴方達2人に用があって来たわけではありませんの、そちらの男性に興味があってね」


ん? やっぱりワイ? こんな色っぽい女性に知り合いはおらんけども。


「どうせロクでもない事たくらんでんでしょ⁉ 早く帰った方が身の為だよ」


「黒華さん……」


綾瀬さん、海藤姉の目の前の女性に対する感情は、とても良いものとは言えそうもなかった。

一体どういう人なんだろう、と言うか、関係性なんだろうか?


「コイツは黒華ローズ、アタシらと同じダンガのメンバーよ……認めたくないけど……」


マジか……? 全然アイドルに見えんけども……大御所女優って言われるなら分かるけども、大人っぽ過ぎる……。


「しつこいですわね……お二人には用はないと言ってるでしょう。皆さん」


目の前の女性が腕を上から下に振り下ろすと、周りのイケメン達は首を垂れて、女性に跪いた。

何が起こってんねん……またワイだけ状況についていけてないパターンか……?


「アンタはまた能力を悪用して……アイドルの風上にも置けないわね……」


「何の事かしら……? まあ良いわ……そこの貴方? ちょっと良いかしら?」


やっぱ、ワイが目的か……? 何の用だろう?


「は、はあ、僕に何の御用でしょう?」


「私の周りにいる男性をご覧になって? この方達の様に私に跪くのです」


コイツ何言っとん……? 大丈夫か……? 初対面の人間に対して跪けとかヤバ過ぎやろ……。熊オッサンといい、何でワイこんな奴らに絡まれんの……元ニートとは言え、ナメられ過ぎやろ……。


「黒華ー! やめろー!」


海藤姉はブチ切れている。

そらそうやろ、人前でこんな非常識な命令するなんて。

一言ガツンと言ってやった方が良いのか?


「あ、あの、差し出がましい様ですが、初対面の人間に『跪け』なんて言わない方が良いですよ。初対面じゃなくても駄目ですが。僕も社会経験あまりなくて非常識な方ですけど、やめた方が良いと思いますよ」


「!!!!!!!!!!!」


「ア、アンタ、何ともないの? 本当に?」


「どういう事ですの? こんな事は一度たりとも……」


どういう事だろう? 海藤姉は驚愕している。

海藤姉だけでなく、この場にいる全員が驚愕している。

誰も何も説明してくれないので、ワイは小声で海藤姉に尋ねる。


「どういう事? 何で皆驚いてんの? 僕、何かした?」


「アンタ本当に何ともないみたいね……黒華のスキルは【誘惑】、女性には効かないけど、男性だと絶対服従……のはずなんだけど……アンタって、相変わらず非常識ね……」


なーほーね、っておいぃ! 何で誰も事前に教えてくれないんだよ! スキルに掛かってしまったら、皆の眼前で恥ずかしい姿晒してたかもしれないだろうが!

目の前では、海藤姉と黒華さんが言い合っている。


スキルで無理やり言うとおりにさせてファンを増やす事が気に入らないアイドル感の違いからだろうか。

ワイはこの隙にスマホをいじっていた。


「ちょ、ちょっと、アンタ、何スマホいじってんのよ!」


「そうですわよ、この場の主役は貴方なのですから……」


いや、勝手に巻き込んで主役にするなよ……ちょっとワイは調べたいことがあったのでスマホを触っていた。


「黒華さんでしたっけ? ちょっと言いたい事があるのですが、良いですか?」


「え、ええ、何かしら……?」


黒華さんは戸惑っている。

ワイは気にせず続ける。


「貴方の事軽く調べさせて貰いましたが、歌下手ですよね?」


「な……」


「ダンスも下手ですよね?」


「ななな……」


「ファン対応に関しては、塩対応通り越して、毒対応ですよね? 綾瀬さんと海藤姉みたいに歌やダンス、ファン対応が完璧なメンバーとは違うようですが?」


「ななななななななな、なーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」


言い過ぎたか……? 食事会の時に海藤姉をゴリライジりして、反省してたのに、つい、悪い癖が出てしまった。


「ちょ、ちょっと、アンタ、流石に言い過ぎだって! で、でもアタシを褒めてくれたのはちょっと嬉しいかも……」


「そうですよ、剛力さん、言い過ぎです! でも、褒めて頂いたのは素直に嬉しいです」


「こんな屈辱は初めてですわ! 皆さん、やっておしまい!」


黒華さんが命令すると、周りのイケメン達は戦闘の意思を見せた。

だが、ワイはここで戦闘したくない。

負けるかもしれないという理由ではなく、逆に戦闘能力の差が大き過ぎて殺してしまうかもしれないからだ。


軽く見積もっても100倍以上の差があるから、手加減しても殺してしまいそうだった。

それに、折角整った顔に生まれてきたのにここで死んでしまうのは勿体無い。

更には、お店や綾瀬さん達にも迷惑がかかる。

ワイはイケメン達に引いてくれないかお願いする。


「皆さん、引いてくれませんか? お願いします」


「そんな事出来るかー!」


「「「「「そうだ、そうだー!!!!!」」」」」


イケメン達は引き下がる気はないらしい。

それでもワイは諦めるわけにはいかない。


「僕の事は知っていますよね? 手加減したとしても命の保証はないですよ」


「う、それは……」


「な、なあ、ヤバいって……?」


「確かに……」


更にワイは闘気を放つ。


「「「「「「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」」」」」


その影響か、イケメン達に変化が訪れる。


「お、俺は何を……い、いや、黒華様の命令に従わないと……」


イケメン達は、我に帰ろうとしたり、再度黒華さんのスキルの影響が出たりしていた。

ワイは、黒華さんにイケメン達に掛かっているスキルを解くようにお願いする。


「黒華さん、彼らのスキルを解いて下さい!」


「無駄よ……私にも解き方は分からないから……本当よ……」


何で解き方の分からないスキルを他人に掛けるんだよ! 無責任な! イケメン達が混乱しているところで海藤姉はワイの腕を掴んで叫んだ。


「逃げるよ! よつばと快斗も!」


ワイらは集団を突っ切って逃げた。

一瞬振り返って、イケメン達をワイは見つめる。

彼らの呪縛を解いてあげたかった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る