第37話食事会

 ワイ、綾瀬さん、海藤姉弟は以前の約束通り一緒に食事に来ていた。

 この4人でいると目立つので、郊外の隠れ家的レストランに来ていた。

 座っている席はワイの隣に海藤姉、対面に綾瀬さん、海藤弟だった。


「アニキ、初の公式戦圧勝カッコよかったっす!」


「ま、まあ、アンタにしては良くやった方じゃない……って、ウルサイ!」


「剛力さん、無事で帰って来てくれて良かった……」


「海藤姉、ウルサイって、僕何も言ってないけど……」


 ワイはいつの間にか海藤姉とタメ口で話せるようになっていた。

 気を使わなくていいし、なんだかんだでお節介焼きの海藤姉が話しやすいと感じるようになっていたからだ。


「海藤姉って、何よその呼び方! かと言ってアンタに下の名前で呼ばれるのも癪だし、あー、腹立つわ!」


「何か、剛力さんと咲良の距離感近くなってないですか? むぅ~……」


 と、綾瀬さんは頬っぺたを膨らませて可愛くむっとした表情を見せる。


「綾瀬さん、こんなゴリラと距離感近くないです。僕、飼育員じゃないですから」


「アニキ、解釈一致っす! アネキはゴリラで間違いないっす! こんな馬鹿力の女いないっすから!」


「こら、アンタら、人を馬鹿にすんな! 誰がゴリラだ! これでもアイドルなのよ!」


「ほら、これでもって言った。自分の凶暴さ認めてるからだよね?」


「アニキ、最高っす!」


 海藤弟は、自分の太腿をバシバシ叩いてウケている。

 海藤姉は、少し腹を立てているものの、何時ものノリか? みたいに対応している。

 だが、イジりが過ぎたかもしれない……イジりも過ぎるとイジメになる。


 本人が苦痛を感じるとイジメになってしまう。

 何時も強がっている海藤姉でも、気にしているかもしれないし、反省しなくては。

 ワイもイジられるの嫌いだし。


「むぅ~、やっぱり距離近い……」


 綾瀬さんは、ワイと海藤姉の距離感が近いことがお気に召さないようだ。

 そんな事、綾瀬さんにとってはどうでも良い事のはずだが、どういう事なんだろう……?


「そんな事、どうでも良いじゃないですか? 皆さん、そろそろ帰りましょうか?」


 ワイははぐらかすように皆に退店を促す。


「もう、そうやってはぐらかして……こっちの気も知らないで……」


 綾瀬さんは、やっぱりご機嫌ななめだ。

 こっちの気ってなんだろう……? ワイの相変わらずのコミュ障っぷりに愛想を尽かされたか……?


 ワイ達は会計に向かう。

 店員さんから、


「ありがとうございました。またのご来店お待ちしております。お代は既に頂戴しております」


 と、料金を既にこちらが支払っている事を伝えられる。

 それもそのはず、ワイが事前に支払ったからだ。

 トイレに行く振りをして、全員分の支払いを済ませておいた。


 何かの雑誌にそうした方がカッコ良いと書いてあったからだ。

 どや? だが、皆からワイの想定している以外の返答が返ってきた。


「は? 誰が支払ったの? アンタ? なんでゲスト側のアンタが支払ってんのよ。今日はホスト側のアタシらが支払うってのが筋でしょ?」


「そうですよ、剛力さん。今日は剛力さんの勝利祝いなのだから、私達に支払わせて欲しかったです……」


 何かワイ、間違ってたみたい……まあ、そこら辺の常識が欠如してるのがワイなんやけど。


「何か知らねっすけど、アニキ、ゴチになります!」


 海藤弟は喜んでくれたみたいだ。

 良かった。

 綾瀬さんからは小声で、「剛力さん、今度は2人で来ましょうね」と、耳打ちされたので、ワイは「はい、行けたら行きましょう」と返事した。


「それ、断り文句ですよね?」


 そうなのか? 知らんかった……やっぱり、ワイ常識が欠如してるな。

 だから元ニートだったわけだけども。


「でも、そういう所も好きかな……」


 綾瀬さんは小声で何か呟いたが、ワイは聞き取れなかった。

 今日はやる事なす事全て空回りしてたな……。

 でもそんなワイの思いとは逆に皆の表情は楽しそうだった。

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