第32話初の公式対人戦

 選手入場

 先ずはワイからだ。

 注目されるのが苦手なワイだが、リングへの道を進んで行く

 歓声が上がる。


『おー!!! いけー!!! やれー!!!』

『剛力様ー!!! 最高ー!!!』

『キャー!!! 剛力様ー!!! 結婚してー!!!』

「はい! はい! はい! 剛力様!!! ファイト!!!」


 めっちゃ応援されている……。

 続いてはオッサンの入場。

 流石は経験者、堂々とした入場だ。


 オリンピックの出場だけでなく、ボクシング、キックボクシング、総合格闘技の試合を何度も経験しているとのことだった。

 だが英雄とも言える彼の入場に対するものは予想とは違っていた。


『引っ込めー!!! お前なんかが勝てるわけないだろー!!!』

『帰れー!!! キモイんだよー!!!』

『キャー!!! 剛力様を殴らないでー!!!』

『ブー!!! ブー!!! ゴリラ死ねー!!!』


 何故かめっちゃブーイング発生している。

 だが彼はそんな事気にする様子もなく、両手を広げて気持ちよさそうにしている。

 なんつーメンタルじゃ!!! 羨ましいわ!!!

 ていうか、ワイへの応援を自分へのものと勘違いしている可能性もあるが……。


 お互いリング入場完了する。

 相変わらずオッサンは両手を広げて気持ち良さそうにしている。


「おぉ、この空気、正に私がいるべき場所だ……素晴らしい……」


 怖い、怖い、怖い、何か言うとりますけど……やばいテンション感なんですけど……。

 見なかったこと、聞かなかったことにしよう……。


 続いて審判からルールの説明がある。


「武器の使用は禁止、相手を死に至らしめることも禁止、予期せぬ形で死に至らしめた場合は遺族への補償等契約書通りに執り行う事とする。その他禁止行為は事前に通達した通りとする。よろしいか?」


「分かりました」


「了解した」


「それでは、始めぇ!!!」


 戦闘開始。

 さて、どうなることやら……。


「おおおおおおぉぉぉぉぉ!!! 行くぞ!!!」


 オッサンから仕掛けてくるか。

 様子見だな。


「は!!! とおっ!!! はああぁぁ!!!」


 オッサンは打撃を繰り出してくる。

 一秒間に百発程度か……いや、百発も出てない感じだ……。

 一秒間に千発以上のベティーナさんの攻撃を見切れるワイやぞ……そんなスロウな攻撃が当たるかよ……。


「はあああぁぁぁ!!! どうした? 運良く避けられているが、避けているだけでは事態は打開できんぞ!!!」


 いや、いや、いや、何言うとん……このオッサン……頭大丈夫か……運良く避けてるって、お前の目は節穴か!!!

 避けるのも飽きてきたので、わざと食らう事にしてみた。


「はあああぁぁぁ!!! 捉えた!!! これで終わりだ!!!」


「何かしました? マッサージですか? ああ、気持ち良いな、ありがとうございま~す」


 ワイはオッサンの攻撃を数百発わざと受けてみる。

 全く痛くない。

 寧ろ気持ち良い位だ。


「なん……だと……」


 オッサンは驚愕している。

 審判もワイが攻撃を何発も食らっているのを認識しているが、ダウンしておらず、有効打はないものと試合を止めることはなかった。


「そろそろ実力差分かってきたでしょ? 決着の時ですかね、そろそろ楽にしてあげますよ」


「何を言っている!!! ふざけるなーーー!!!」


 ワイが配信者を始めてから気付いたことがある。

 他人のステータスをスマホで確認できるが、大体の配信者のステータスは一桁、トップクラスでも二桁。三桁を超えるものなどいない、ワイ以外には。


 オッサンのステータスは80~90程度。

 配信者の中では圧倒的に強者。

 それに対してワイは、500~700程。


 ワイの体感では、ステータスが10違えば大人と子供程の差、20違えば蟻と像アザラシ程の差、30違えば月とスッポンドリンク程の差があると思われる。

 ワイとオッサンの差はと言うと……知らん、例えも思い浮かばん。


 ワイはオッサンの鳩尾にボディーブローをお見舞いする。


「ぐっ……!」


 オッサンの体がくの字に折れ曲がったところで、首筋に手刀をお見舞いする。


「……………………」


 気絶したようだ。

 勝負ありだ。


「あ、あの、審判さん?」


 ワイは審判に試合終了の宣言を促す。


「しょ、勝負あり!!!  剛力選手の勝利!!!」


 こうしてワイの初めての対人戦は圧勝で幕を閉じるのであった。

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