第30話戦闘訓練
ワイの生活でもう一つ変わったことがあった。
女性の出待ちが増えたことだ。
ダンジョンに入る前とか、ダンジョン内のセーフゾーンとか、ダンジョンから出るときとか、兎に角声を掛けられまくった。
『握手して下さい』とか、『写真撮って下さい』とか、コミュ症のワイにはどう対応したらいいのか分からなかった。
それだけならまだしも、『付き合ってください』とか、『結婚して下さい』とか、急に言われてしまうという悪夢の日々を送っていた。
握手してくださいとか、写真撮って下さいとかは100歩譲ってまだ分かる。
でも、付き合って下さいとか、結婚して下さいとか、冗談にしたって怖すぎるやろ……。
逆の立場で考えてもらって、いきなり知らん人から結婚して下さいとか言われたらどう思うねん……?
有名人って皆こんな大変な思いしながら生活してんのかって、ワイは思った。
こんな所ベティーナさんに見られたら、また怒り出すので、ワイはこそこそとベティーナさんとの合流地点に向かうのであった。
「ワイ君、ヤッホー! 元気してた?」
「ど、どうも、こんにちは……ベティーナさん、僕はいつも普通です。元気な時はないです。ベティーナさんはどうですか?」
「ボク? ボクはいつも元気だよ!!!」
ベティーナさんのクソ陽キャに、クソ陰キャのワイは圧倒される。
今日の訓練フロアは78層。
魔石が流通し始めた今でも上級者ステージに立ち入る人はほとんどいない。
上級者ステージのモンスターを倒せるほどの魔石は数百万円するし、魔石を持っていたとしても、凶悪なモンスターの先制攻撃を受けて全滅する可能性があるからだ。
ダンジョンライブ社も魔石の有用性は説くが、魔石は万能でなく、モンスターの素早い先制攻撃には対応できない可能性があるので、立ち入り禁止ではないが、立ち入りを推奨していなかった。
そんな危険なフロアを何故ワイ達が選んだかというと、邪魔が入らないからという理由だからだ。
邪魔というより、他者から注目されて集中を乱さない為だ。
ワイのチャンネル登録者数は1億人、ベティーナさんは6700万人。
そんな2人が戦闘訓練なんてすると知られれば、たちまち注目の的になってしまう。
特にワイは人に見られるのが好きではないので、静かな上級者ステージで戦闘訓練をおこなうことになった。
76層、77層とワイ達は進み、凶悪なモンスターが出現するが、一瞬で殲滅する。
魔石を念のため持ってきていたが、使う事もなく進んでいく。
ベティーナさんはモンスターを一瞬で大鎌で切り刻み、ワイは素手と魔法で殲滅する。
78層に到着。
今日の訓練はモンスターを倒すことではなく、対人戦の練習。
つまり、ワイとベティーナさんが戦う。
ただ、ワイらが戦っている間にモンスターが襲ってくるので、そいつらはついでに倒しておく。
「じゃあ、行くよ! ワイ君!!!」
ベティーナさんはワイに向かって蹴りを繰り出してくる。
ダンジョン内で人への武器使用は禁止されているから、今日は大鎌は使用してこない。
1秒間に1000回以上の攻撃
それをワイは難なく躱す。
それにしても見えそうである。
何がと言われても困るのだが、上段蹴りの時に特に見えそうだった。
「速いっ!!! 流石ワイ君! これならどうだ!!!」
ベティーナさんはさらに速度を上げる。
だが、ワイは全て見切っているので当たらない。
「ワイ君も攻撃してきていいんだよ? ボクばっかり攻撃してても練習にならないし」
「いや、流石に女性を殴るなんてことは……」
攻撃はしなくても回避の練習にはなる。
それにどうしても女性に攻撃するなんてワイは出来なかった。
「後悔するよ! じゃあ、まだまだ速度上げるよ!!!」
ベティーナさんはさらに速度を上げる。
しかし、ワイに攻撃が当たることはない。
「はぁ、はぁ、何で当たらない……ワイ君、速すぎ……」
ベティーナさんは息を切らしている。
疲れたのかもう攻撃の意思は見られない。
「スタッフに言われたんだよ……ボクの攻撃は人間の反応速度を超えてるって……だからボクの攻撃は不可避だって……なのに何でワイ君避けてるの……?」
理由としては、攻撃を見切っているからだけど、それを直接言うわけにも行かないだろう。
ワイは適当に濁す。
「運が良いだけだよ。ベティーナさんの攻撃速すぎ……」
「なわけ……ていうか、何でゴウシロウ君はいまさらワイ君と戦おうとしているんだろう? 結果は分かりきったことなのに……」
確かに……何で熊オッサン、ワイに対抗意識燃やしてんのやろ? てかベティーナさん、結果分かりきっていることなのにって、ワイと熊オッサンの実力差が分かってるってことなのか……。
もしかしてワイの実力って熊オッサンの足元にも及ばない可能性があるのか……。
ボロボロにぶちのめされる可能性もあるが、いまさら後には引けない。
「もう、決まったことだし……お互い全力で戦うだけだよ」
「ワイ君が全力出したらゴウシロウ君が可哀そうだよ。ふふふっ!」
相変わらずよく分からない匂わせするな……ベティーナさんは……。
「じゃあ、そろそろ帰りましょうか?」
ワイはそろそろお子ちゃまは帰るべき時間だと思ったので、訓練を切り上げるように促す。
「え~、寂しいよ……また遊んでくれるよね? ワイ君? 絶対だよ!!! 絶対!!!」
彼女にとったら戦闘は遊びなのか……。
「じゃあ、今度は飴玉持ってきますね」
「わ~い、飴玉だ! って、お子ちゃま扱いするな!!!」
こんな感じで子守り、いや、戦闘訓練は終了するのだった。
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